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筆不精者の雑彙

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「エロマンガ・スタディーズVol.1」@ロフトプラスワン レポ前半

 昨日見に行ったものの一つが、表題にあるとおり

 永山薫プロデュース「エロマンガ・スタディーズVol.1」

 でした。今日はそのイベントのレポートを。もう一つ見に行ったものについてはまた後日。
 このイベントはどんなものか、「プロデュース」した『エロマンガ・スタディーズ』の著者・永山薫氏のブログから引用すると、
『エロマンガ・スタディーズ』出版記念イベントでは時間的に詰めきれなかった「エロ漫画の現在」を新ネタてんこ盛りでガチに語り倒す濃厚3時間。今、エロ漫画はどうなっておるのか? ナニが面白いのか? どこがスゴイのか? 何から読み始めればいいのか?
出演:しばたたかひろ(OHP)
   伊藤剛(『テヅカ・イズ・デッド』著者)
   永山薫、ほか
 というわけで、1月31日に行われたイベント(このイベントのレポートについては、こちらのブログがリンクを集めてます)に続いて、エロマンガの現状を中心に語るというイベントでした(ということだと思います)。前回のイベントには所用で行けなかったのですが、今回は幸い行くことができました。
 ちなみにこれが小生にとって初のロフトプラスワン経験でした。

 初めてでしたが、新宿コマ劇場という巨大なランドマークがあるので、ロフトプラスワンはすぐ見つかりました。歌舞伎町の一角にあるわけですが、ちょっと周囲をうろうろしてみたら、「コスプレ(メイド)」喫茶が2軒見つかりました。アニメ絵の看板のキャバクラも結構あるし。
 18時45分ごろ会場入りしましたが、既に30人くらい先客がおり、最終的には80人くらいはいたのではないかと思います。立見はほとんどいませんでしたが、座席はほぼ埋まっているという状況。男女比は9割方男か。

 予定の開始時刻よりやや早く、19時15分頃から始まりました。
 以下にその内容を、会場で取ったメモから書き連ねて行きたいと思いますが、勿論全て筆記できたわけではありませんし、各論者の発言はメモから書き起こしたもので発言そのものではありません。「何から読み始めればいいのか?」の手がかりになるように、なるべく作品名や著者名は拾っておこうと思ったのですが、何分小生自身がエロマンガに関して大した素養があるわけでもなく、漏れや誤りは一杯あると思います。その旨ご諒承下さい。あと一部敬称略。
 マンガ家の名前は、原則として初出時は太字で示してあります。単行本の表紙画像を多く取り込んでいますが、これは個人的メモと同時に、当日スクリーンに画像が映し出されていた会場の雰囲気を少しでも再現したいという意図からです。多分。
※これが原因なのか、公開停止になってしまいましたので、画像を削除して再度アップしております。
※2007.4.30.追記:画像を元通り(正確には一点追加)に加えた完全版を、MaIDERiA出版局サイトに再度掲載しました。画像と書籍情報へのリンクつき完全版はこちら

・第一部
 壇上に永山氏・しばた氏・伊藤氏登場。

永山氏「今日のイベントは前回のイベントで喋れなかったしばた氏がメイン。もっとも事前にネタを仕込んだ後しばた氏に聞いたら、しばた氏とネタがほとんどかぶっていた」
伊藤氏「『漫鬼』ことしばた氏を立てたい」
というわけで第一部は基本的にしばた氏による解説が中心。

●まず、前回のイベントで触れられなかった最近の歴史(ここ四半世紀)について

 しばた氏がエクセルにて作成した表がスクリーンに。伊藤氏「パワポじゃないんだ」しばた氏「パワポ使えないんです」
1982年 『漫画ブリッコ』創刊
1986年 『ペンギンクラブ』創刊
1990年代初頭 有害コミック問題
1995年ごろ エロ漫画バブル到来
1999年ごろ 無修正化の波
2002年 松文館事件
2004年7月 コンビニ売りエロ雑誌に封印シール
 無修正化の波とは、『夢雅』など桜桃書房系が引っ張った。その関係者はのち現在のティーアイネットに。これによって作風も変る。クライマックスシーンだけ抜き出したようなもの、過激な表現をするため線を増やした結果、劇画っぽいものが出てきた。

●以上の歴史を踏まえて、しばた氏による昨年の総括

 1.業界再編で勝ち組と負け組が明確に。
 2.一般誌による作家引き抜きが激増。
 3.その穴を埋める新人作家の登場。


●1.について
 とらのあなのエロ漫画売上ベスト50を見ると、コアマガジンが圧倒的(40%)。とらではコアに初回特典をつけたりしてることを考えても多い。2位は茜新社、ワニマガジンも比較的よい。2ちゃんでの評価はまた別で、ティーアイネットも多い(ただし母数が少ないデータ)。
 永山氏、2ちゃんのデータを見て「お、上連雀先生がベスト10にいる」(会場笑)。また「コアマガジンは元気があり、ワニも雑誌を増やしていてやはり元気がある」と指摘。

 一方、老舗が苦戦しており、司書房の『ドルフィン』が休刊。しばた氏「『ドルフィン』好きだった。寂しい」
 また三和出版で、一旦雑誌からアンソロジー形態になったものの奇蹟の復活を果たした『フラミンゴR』が結局休刊。東京三世社も。日本出版社『レモンクラブ』も。
永山氏「塩山(芳明)さんが仕事減って大変。でもちくまの文庫本(注:『出版業界最底辺日記エロ漫画編集者「嫌われ者の記」』)は『エロスタ』の2倍は売れてる」
 他にはメディアックス『コミックポット』や、「新進気鋭」の幻冬舎コミックスの隔月誌(誌名失念)も14号出して休刊。

 リニューアルする雑誌も。昨年の大ニュースとしては『ペンギンクラブ』のリニューアル、一つの時代が終わった。『ペンギンクラブ』的なものは『コミックシグマ』(茜新社)へ。
 また『コミックジャンボ』もリニューアルし、編集長が変って(元『ドルフィン』)、巻頭カラーの新連載がベテランのわたなべわたる
しばた氏「俺たちのふるさとはここにしかない、という感じです」永山氏「タイムマシンだな」伊藤氏「一巡してこれもあり、か?」
 伊藤氏に拠れば『コミックジャンボ』の読者平均年齢は41歳(一昨年の時点で)の由。年齢構成が偏っているがこれはエロ以外の漫画雑誌、さらには雑誌全体の問題とのこと。
しばた氏「『ジャンボ』はなつかしい、もう抜く云々の問題ではない、昔の友達に会ったみたいな」
伊藤氏「発言が枯れてるやん」

●2.について
 引き抜きの最たるものが秋田書店。『ヤングチャンピオン烈』はコンビニ売りエロ雑誌のノリがあり、執筆陣に非エロ出身の人がほとんどいない。もりしげCuvieなど(スクリーンに同誌の目次ページが示されるが、作家が多すぎて書ききれず)。伊藤氏「2000年ごろの『零式』みたい」
 『メガストア』で描いていたけものの★は、単行本が一冊もないのに引き抜かれた(「女の子の表情のバリエーションが多くて良い」とのこと)。堀骨砕三も描いた。
伊藤氏「秋田か外注に相当(エロマンガを)好きな人がいるのではないか」

 メジャー系でエロ出身の作家を使うのは、オタク系・萌え系が中心。かつては『ヤングアニマル』くらいが限界だったが、例えば講談社の『少年シリウス』にはひぢりれいが別ペンネームが描いている。メディアファクトリー『コミックアライブ』に國津武士
永山氏「漫画の力がしっかりしている人たちなので、見る目ある編集なら何にでも使えると分かる。萌えだけの人とそこが違う」

 以下、この論点を巡って論者3人が議論。
永山氏「これまでの引き抜きは、エロマンガ界で名を売って頂点に立った人が、言葉は悪いが『上がり』でなることが多かった」
しばた氏「昔の引き抜きの場合、引き抜かれた青年誌での役割はエロ担当だった。最近はエロなしでもOKになっている。メジャーの引き抜きの代表が東雲太郎。エロ系を生かして、しかも恋愛ものとしても面白い」
永山氏「東雲太郎は乳もでかいし男の子も可愛い。もう『ふたりエッチ』の時代じゃない
口が滑った永山氏にしばた氏・伊藤氏が反論。永山氏「聞かなかったことに」

伊藤氏「直接的な性愛描写のあることの意味が薄れているのではないか」
しばた氏「『萌え』がプラスされたので、エロへのこだわりが薄れたのではないか。どっちかがあればいい。『萌え』ブームが、エロ作家を一般誌が取り込むことを可能にしたのでは」
伊藤氏「『萌え』的なものを自分の読書体験で持っている人が、編集側でも地位を得てきたのではないか」
永山氏「潜在的に大きかった『萌え』の受容が公なものになった」
しばた氏「メジャー誌が『萌え』を取り込もうとした時、自分たちで作家を育てられずにエロから引っこ抜いた。エロ系はもっと自慢していいのでは、メジャーで育てられなかったものを生んだと」
伊藤氏「実は外注で同じ人が作ってる、とか」

伊藤氏「消費者の消費行動が、エロについて重きを置かないと、エロ誌の立場は苦しい」
しばた氏「抜きや『萌え』に特化して、幅が狭くなってしまう傾向はある」
伊藤氏「女子中高生向けでハッピーエンドになるような、ティーンズラブものの読者に男がいる。無修正化で進んだ強烈なエロについていけない人もいるのではないか。郊外の書店(レンタルビデオを併設しているような)の売れ方は、都市の専門店と全く違う。こういう需要もある。『萌え』が好きな人(キャラクターが好きな人)とエロが好きな人(こういった人は実写でも良い)とがいて、エロに走った後に揺り戻しが来たのでは。キャラが好きな人はついていけない」
永山氏「そこらへんにコアマガジンの強さがあるのでは。どちらの読者も引っ張れる。『萌え』と抜きに二極化して、『萌え』が一般誌に逃げた。さらにその揺り戻しで、コアマガジンや茜新社が売れるのでは」
しばた氏「最近注目しているのがEDの作品。かわいい絵を描くが性描写はえぐい」
伊藤氏「消しは?」
しばた氏「見りゃ分かるでしょ、ないですよ」
伊藤氏「バカには見えない消しですか」
永山氏「こういうのは鬼ノ仁なんかもそうでは」
しばた氏「鬼ノ仁も一般誌に引き抜かれた。エロが濃くなったので、これで一般誌に濃すぎて出られないのではと危惧したが、うまく一般誌に溶け込んでいる。編集者もうまくコントロールしてる」
永山氏「それは基礎がしっかりしているから。引き抜きのポイントは、『萌え』やフェティシズム以外に、『きちんとマンガが描ける』ということ。この点で、まだこの業界(エロマンガ)は宝庫」

●3.について
 再びしばた氏の解説。2006年は新人の台頭が目立ち、先ほど上げたチャートの上位にも初単行本の作家が目立つ。1位の小梅けいと『花粉少女注意報!』や、2位の『初犬』など。

 ここで話が逸れてペンネームについて。
しばた氏「最近のエロ漫画家は検索しにくい名前の人が多い。EDだのDE(?)だのDP(?)だの、あと犬も」
伊藤氏「元素記号みたい。アマゾンやセブンアンドワイのネット検索で不利では」
しばた氏「わざとやってるんですかね。親に知られたくないとか」
 他に検索しにくい作家・作品としてナイロン『ナイロン100%』が挙げられる。
伊藤氏「これは80年代初頭の渋谷のクラブ(戸川純などが活躍)の名前が元ネタ、余計分かりにくい」

 話はカラーについてに移る。
 カラーの上手い人が増えた。エロゲーや、ネット上の発表が増えたことの影響や、パソコンの機材としての進化によるものか。2ちゃんのスレッドで「絵を上手く見せるテクニック」というスレがあった。
伊藤氏「ネットのお絵かき掲示板などがあるため、絵描き当人も自分の絵がどこでどう影響を受けたのか分からない、というのが学校の生徒でいた」
 塗りの上手い新人としてあげられるのが石恵鳴子ハナハル。鳴子の単行本が出ないのは理解しがたいことだが、「かみちゅ!」のマンガを描いたせいか。ただ、塗りの上手い人の作品とは、もともと巻頭カラー4ページなどというのが多く、単行本化しにくい。

 前半一番の山場となったRIKIネタに。
しばた氏「RIKIもすごい。厳密には新人といえるか微妙だが」
永山氏「みさくら語もメじゃない」
 スクリーンに映った画像が見難いため、伊藤氏の要望により永山氏がRIKI作品の台詞を熱く朗読、会場大いに沸く。
しばた氏「RIKI先生天才ですね」
永山氏「脳味噌弾けてるね」
伊藤氏「これ、いいね」
 三人とも絶賛。
 RIKIは最近4コママンガも描いているが、内容が無茶苦茶なだけでなく、4コマ中3コマをぶち抜きで一コマにしてしまったり、凄い作品と紹介。

 しばた氏がその他に挙げた作者としては、てりてりお(「みずみずしい絵を描く、きっとメジャー系に引っこ抜かれる」)、ヤスイリオスケ(「巨乳がいい」)、大和川(「ぴちぴちした絵でプロポーションが良いい。最近のエロマンガは巨乳と貧乳しかないが、大和川は大も小も中も描ける」)。

 ここで伊藤氏が、自分の門下からめでたくエロマンガデビューした人を紹介。きりりんといい、『少女天国』に描いている由。その近作「ベロニカちゃんとぼく」は、ベロニカお嬢様と、お嬢様に仕える少年の話・・・と編集者も伊藤氏も思っていたところ、よく見ると「ぼく」に「乳がある!」ということに最終段階で気付き、編集者が男に直させようとホワイトを握りしめてきりりんに迫るも、作者は女の子の方が良いのだといって譲らなかったとか。
伊藤氏「描き手の中でも、エロと一般と両方描きたいという揺らぎがある」
しばた氏「でも両者の間に線を引いていますよね」

 ここで時刻は21時となり、第一部はここまでとして一旦休憩。
 後半に続く。
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by bokukoui | 2007-03-26 23:58 | 漫画 | Comments(0)