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筆不精者の雑彙

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「エロマンガ・スタディーズVol.1」@ロフトプラスワン レポ後半

 前半の続きです。

 第二部は20分ほどして再開。第二部は各人お勧めのマンガなどのネタを持ち込んでトーク。

・第二部
しばた氏「漠然と最近(2000~)の話を。04~05は面白かった。06は引き抜きが多くて再編成中という感じ。」

●長編化について
しばた氏「エロマンガの長編化がかなりあった。多かったのが『メガストア』、一番売れている雑誌だった。そのため読み応えのある作品が多かった。例としては師走の翁『シャイニング娘。』、みた森たつや『小池田さんと遊ぼう!』(恋愛と「萌え」とエロとがすべてある)、東雲太郎『Swing Out Sisters』(しばた氏の2005年ベスト)」
永山氏「長編は諸刃の剣。固定客がつかめるけれど一見さんお断りになりかねない。リスクはどうか」
しばた氏「エロマンガの長編は一話完結型が発展したものが多い。読者もそれを求めている。ここに挙げたような作品は、話が続くことでラブラブ度が上がるとエロ度も比例して上がるのがよかった」
永山氏「長編はキャラクターの奥行きが出る」
しばた氏「印象的だったのはゼロの者『わすれな』」
永山氏「短編であっても余白を感じさせてくれる、上手い人だったので長編もうまくいった」
しばた氏「マイノリティ『お嬢様と僕』、キャラクターが立ったので長編になった。絵はビザールな衣裳などくどいが話はラブラブで『萌え』系。ラブラブ度を高めつつエロ度を高める」

永山氏「やっぱみんな恋愛したいのか」
しばた氏「甘ったるい恋愛ものが増えている」
永山氏「でもセックスはがっつんがっつんにやってるでしょ」
伊藤氏(?)「キャラクターは善人か」
しばた氏「出てくるキャラクターは善人が多い」
永山氏「恋愛するのは善人なのか」
伊藤氏「そうまとめると別の所へ行ってしまう(笑)」

しばた氏「昔は雑誌の中で、抜き担当・『萌え』担当・ファッション系・ギャグ担当・ストーリー担当など役割分担があった。それを一人の作家がやるようになった」
伊藤氏「つまり16ページで入らなくなった(から長編化した)」
しばた氏「こうなったのはエロゲーの影響では。エロゲーはマルチエンディングでいろんな要素を一本で満たそうとしている。価格が高いのでユーザーもそれを求める」
永山氏「価格が高いからというのは面白い。そういうのに慣れた人がエロマンガを読むと、物足りなく感じてしまうのでは。単行本一冊の中で全部満たしたい」
しばた氏「雑誌も、『メガストア』なんかは多方面に展開している」

●雑誌の表紙について
 ネタとして、永山・しばた両氏が奇しくも共にスキャンして持ち込んだのが、『LO』2007年3月号の表紙。

 これは既にネット上でも大いに話題になっていた由。
しばた氏「この表紙のラーメンも『全部のせ』みたいですね(笑)」

永山氏「このラーメンの表紙は、エロマンガに見えないがエロマンガでしかありえない表紙。どの雑誌でも表紙には情報を沢山盛り込もうとするが、『LO』は表紙のデザインを巧みにして、表紙買いを狙っているのでは。一昔前なら村田蓮爾の表紙のために雑誌を買う人がいただろう」
しばた氏「今は『TENMA』をうるし原智志のために買う人もいるみたいで。雑誌の表紙は捨てているが、うるし原の表紙が欲しいと言われたことがあった(笑)」

●巨乳(人外)vs貧乳(ロリ)
しばた氏「2006年は再編成中のため、ベストを選ぶのが難しかった。
最近のエロマンガは巨乳と貧乳しかない。でかいのはとことんでかく、小さいのはとことん小さくなっている。巨乳にはスタンダードな巨乳とそうでないのと(「巨乳に「スタンダード」とはなんぞやという声)、スタンダードなのは『人間に見える』もの。人間に見えないというのは、HG茶川のようなの。上乃龍也の乳はつやつや、テラテラ。天太郎作品も同様。CG技術の賜物か。草津てるにょも同様。
人間に見えない巨乳のHG茶川も、最近『萌え』に目覚めてきた。茶川作品の女の子は服を着てるとマトモだが・・・」
永山氏「まともか?」
しばた氏「・・・が、脱げば脱ぐほど乳がでかくなる」
伊藤氏「いいですね」
永山氏「いいか? 胸にでかいチンコがついてるみたいな」
伊藤氏「それは褒め言葉でしょう」

しばた氏「巨乳といえばRaTe『日本巨乳党』がすごい」
『日本巨乳党』の「巨乳平面(?)説」の説明。乳を近似した球に見立てた場合、貧乳の方が球の直径が大きいから実は巨乳なのだ、という驚くべき説。会場爆笑。
伊藤氏「これもギャグですか」
しばた氏「まあ、ギャグでしょう」
永山氏「いや、RaTeだからね」

しばた氏「次は貧乳を。貧乳といえばロリですね。
ゴージャス宝田は台詞が熱い。寡作なのが玉にキズ。寡作といえばデビュー13年目にして初単行本という大山田満月の本も発行が遅れている模様。
ロリでは関谷あさみがよい。スタイリッシュで綺麗な絵柄。
また、鬼束直はすっきりした画風。
いい人もいっぱい出ているが、時節的に厳しい世界」
永山氏「いつも厳しい分野だと思う。寡作ならいいけど、ロリ系の漫画家を見なくなると、何かあったんじゃないかと思ってしまう。・・・最近、月角先生見ませんね?」
しばた氏「大山田満月が13年単行本出なかったので、『ホットミルク』が捨てられなかった」
伊藤氏「もともとエロマンガって捨てにくい」
永山氏「俺はボンボン捨てちゃう」
伊藤氏「『ボンボン』捨てるのかと思った(笑)」

●A
しばた氏「貧乳の次はおしりの話。最近はおしり(での行為)を入れるのが標準になってしまった」
伊藤氏「おしりってそっちの方の話か」
しばた氏「最近のでは紺野あずれ『思春期クレイジーズ』。しかしなぜおしりが普通になったのか」
永山氏「バリエーションの一つとして」
しばた氏「同時に何本も挿入するのが増えた。快感をより強く表すために、1本より2本、2本より3本と増えていったのか。しかし『思春期クレイジーズ』はおしり一本にこだわった作品」

●永山氏のおすすめ
しばた氏「永山さんのおすすめを伺いたい」
永山氏「しばたさんとかなりかぶってる。最近『抜き』とは別に大笑いしたのはぐら乳頭『エスケープ』。ふたなりしかいない学校というのは上連雀三平と似ているが、ぐら乳頭は頭のネジが外れてる。ここへ転入してくるのが男の子で、ふたなりの教師が彼を襲って孕ませると叫ぶ。チンチンも乳もでかい。このバカさは芸風」

●三和出版からのおみやげと変格マンガについて
 この時点で21時を回り、永山氏「あと1時間弱なので出し惜しみしないで・・・」
永山氏「仕事で行った三和出版で、今回のイベントのプレゼント用の本を色々と貰ってきた。
まずは「キモーイ」(参考1参考2)で2ちゃんによく引用されて有名な、にったじゅん『奪!童貞』。にったじゅん作品は人気があって、ロングセラーになっている。登場する女の子が皆気が強く、ハードボイルドな意味で非情。これが人気があるのは一種の童貞ドリームではないか。どんな形でもできればいい、というマゾな発想。それがおおっぴらになってきている。いいこと
にったじゅんの新作は『県立性指導センター』、はじめてにったじゅん作品の表題から『童貞』が消えた。にったじゅん=童貞、というイメージが定着したから。

三和で変態といえば栗田勇午『ノードッグ・ノーライフ』、獣との愛、いや獣は分からないけど、女の子が獣を愛する姿を描く。絵が浦沢直樹に似てる」
伊藤氏「似てるか?」
永山氏「『YAWARA!』の頃の絵に。栗田勇午という名前もスピリッツ臭が」
伊藤氏「あー。『YAWARA!』というよりキートンの娘だな」
永山氏「獣姦ものは犬と女性とどっちに読者は自分を投影しているのか」
しばた氏「やっぱ女性じゃないですか」
伊藤氏「獣に表情をつけるのが難しい」
しばた氏「トドとかオットセイとかもいいと思うんですけどね。ジュゴンとかも」
伊藤氏「ジュゴンって語感がエロいよね」
 他にプレゼントとして、古いアンソロ(詳細失念。みなすきぽぷり(現椎木冊也)が描いていて、編集伊藤剛氏)やBL作品も。
永山氏「三和出版はこういった変なものに強い。消えて欲しくない」

しばた氏「三和の話になったので、変格な人の話を。『萌え』と抜きの二元化で、町野変丸駕籠真太郎のような作家の活躍の場が少ない。しかし最近は、変なことをするにも可愛い絵でなければならない。その代表例が掘骨砕三」
永山氏「この『ひみつの犬神コココちゃん』のクライマックス、団子虫に変身した先生が30台にして初めてセックスの喜びを知るシーンなど、一般化しうる感動をちゃんと含んでいる。マンガ読みで堀骨砕三を読まないのはモグリ」
しばた氏「最近のではまた、奴隷ジャッキーの作品が凄い。変なことのできる雑誌が減ったといったが、意外と変なのが多いのが『エンジェルクラブ』。奴隷ジャッキー、HG茶川、中華なると山本よし文など。中華なるとの作品は男キャラのおやじ顔が好き
伊藤氏「これって売れてんの?」
しばた氏「さあ・・・」
しばた氏「変格エロマンガで注目なのがうさくん。『しあわせぱんつ』の初回限定版には附録で女児のパンツがついてきた。今ここに持ってきたので・・・」
 しばた氏、「ぱんつBOX」をオープンし、パンツを掲げて会場に示す。アイロンプリントの一式も同梱されている。
しばた氏「名残惜しいのですが、これを来場者の方にプレゼントと。私は初回限定版と通常版と両方持っていて、本はほとんど変らないので、もちろんパンツだけでなく本もおつけします」
 しばた氏、荷物を探してややあって、「すみません、本忘れました。プレゼントはパンツだけで」(会場笑)
しばた氏「この人のマンガは私は大好きです。今時カラーもフルアナログで作画していて、この職人技的な線が・・・」

●伊藤剛氏、手塚のエロを語る
 二つの流れを事前に考えてきていて、一つは自分はここではショタ担当かと思ったが、肝心の一押しの本を忘れてきてしまったこともあり、今までの濃い話に対抗して濃い方を。
 4月から、手塚治虫の前週に入っている作品をオンデマンドでまとめて自分だけのアンソロジーを作れるという、『手塚治虫Oマガジン』というサービスが始まる。
 手塚がエロいということは有名であるが、『ダ・ヴィンチ』誌の企画で自分もこれを作ることになって、そのために手塚を読み直すと、今まで出てきたような話を手塚は70~80年代にやっている。エロに関しては「テヅカ・イズ・アライヴ」

 ちゃんと読み直さないとはっきりとは言えないが、手塚は60年代から急速にエロくなって行き、ヤバいエロさは60年代末~70年代が山だったのではないか。例えば「グロテスクへの招待」では、少女が自分の好きなものに何でも同化して蜘蛛女や蜥蜴女になってしまう話で、「シャミ-1000」という作品ではネコ型宇宙人が登場し、ツンデレ的要素もある。
 「低俗天使」という作品はヴェトナム戦争を背景としているが、ロリっ子が出てきて、「自分も働く」といってヌードショーに出演しそうになる話がある。それを主人公が止めさせた時のヌードショー屋の言い分「その子が自分で20歳だと言ったんだ」は、昨今のエロゲーの、どうしてもそうは見えないけれど「登場人物は皆18歳以上です」を髣髴とさせる(笑)。
 この作品には「おにいちゃん」の台詞もあり、また女の子が服を着ているのか着ていないのかよく分からない描写が面白い。簡潔な線でキャラクターの存在を出す手塚らしさだが、のちに手塚は劇画の影響でそれを失っていく。
 
 この企画ではページ数の都合上入れられなかった作品に、「こじき姫ルンペネラ」という今では許されなさそうなタイトルの作品がある(『ヤングマガジン』連載、1980)。押しかけ女房的コメディで、これは当時登場したばかりであった(『うる星やつら』は1978~)。それを取り入れた手塚。
 本作は最後の方になると色々な映画のパロディを入れまくって、グダグダのメタフィクションになり、「こんなマンガ読んでると馬鹿になるぞ」と登場人物が読者に言って終わりになる。

 社会問題や環境問題のようなテーマがあった70年代までの方が、手塚は脇からエロを差し込んでいた。エロを扱いやすくなったはずの80年代になってからの方が、正面から扱うのには照れがあったのか、手塚のエロはむしろ退潮した。

●告知
 ここまでで時刻は22時50分頃となり、締めとして告知が2点。
 まず「同人誌生活文化総合研究所」の三崎尚人氏が登場、5月19日に豊島公会堂で同人誌と表現を考えるシンポジウムを行う由。警察庁の「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」(これについては当ブログでも過去に触れました)の報告書に同人誌や即売会も挙げられており、児ポ法の改定も今年。さらに警察のこの問題の立役者だった竹花豊氏(「ロフトでイベントやるといつも山本夜羽音に悪口言われてる人)も警察を辞めて参院選出馬という。この状況にどう対応するか、というもの。
 もう一点はロフトプラスワンで7月11日に行われる「メガネ茶屋」。「めがねっこ萌え」向けだったメガネっ娘居酒屋の向こうを張って、「メガネ男子萌え」の腐女子向けイベントとの由。メガネの男性は桟敷に上げられて「見られる」側になるのだとか。
しばた氏「7月11日は私の誕生日です」

 最後にプレゼントのじゃんけん大会をやって、23時10分頃イベント終了となりました。

 大変面白いイベントで、知ってる名前も知らない名前もいっぱい出てきて楽しかったですね。分かればそれに越したことはありませんが、濃さがある閾値を越えると、分からなくてもそれはそれで面白くなってきます。それだけの味のあるイベントでした。「エロマンガ・スタディーズVol.1」ということは、Vol.2もあるのでしょうか?
 このイベントでの議論に関連して小生が思うところもありますが、それは次の機会にして、今日の記事(前後編になってしまいましたが)はなるべく会場のトーク内容を伝えることに狙いを置きました。よくまとまって評論もついた記事は他サイトさんでどうぞ(←最初に書いておけよ)。小生はなにさまエロマンガに関して素養が薄いため、下手に要約するとツボを外してしまいそうだったので、このような形式とした次第です。それでも漏れは多いと思いますが。

 ひとつだけ個人的な発見を書いておきますと、ひょんなことからこの会場に来ていた人に、複数名の東大生がいたということが判明しました。聞けば美術史やSF研やTMRなど、なるほどその筋の方々ではありましたが、どうも東京で妖しいオタクの来そうなイベントをすれば、先日のホワイトデー粉砕デモといい、必ず何人かは東大関係者が来るようで。やはりオタクの多い大学なんでしょうね。

 余談。
 イベントで出てきたマンガ家の作品の大部分は小生は読んだことがありませんでしたが、その中で一番沢山読んでいたのは駕籠真太郎先生でした。次点は多分もりしげ。

※エキサイト当局により当初の画像満載版が公開停止処分となったので、画像を削除した版となっております。その点ご諒承下さい。(2007.3.39.02:08再投稿)
※この記事の訂正に関する経緯を、3月28日付記事の末節に記してあります。
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by bokukoui | 2007-03-26 23:59 | 漫画 | Comments(0)