「同人誌と表現を考えるシンポジウム」見学記
このイベントの趣旨が如何なるものか、上掲リンク先より引用しておきます。
昨年4月警察庁生活安全局の諮問機関として「バーチャル社会のもたらす弊害からこどもを守る研究会」が作られ、携帯電話のフィルタリング、ゲーム・まんがの「有害性」について、様々な議論が行われました。そして、昨年12月に公表された、本研究会の最終報告書においては、様々なメディアと共に同人誌及び同人誌即売会が取り上げられるということになりました。このような公的機関の報告書に「同人誌」が取り上げられるのは、極めて異例のことです。この「ヴァーチャル~研究会」については、報告書が出た当時拙ブログに一文を物した覚えもあり、些かの興味関心を持った次第です。さらに、時折拙ブログにもコメントくださるLenazo氏が本シンポジウムにご参加されるつもりであるとお伝えくださったので、それも何かの縁であると思って出かけたのでした。
こうした状況の背景には、近年、書店販売やネット通販の普及により、これまで即売会会場まで足を運ばなければ目に触れることのなかった同人誌が一般社会に浸透しつつある事が挙げられます。それにより、これまで「同人誌」ということで許容されてきた表現が外部の目に触れることで、様々なトラブルを生じかねない事態も懸念されるようになっています。
このような状況にどのように対応していくべきなのか、もう一度同人誌の現状を見直し、表現の有り方を問い直すとともに、同人誌での自由な表現を守っていくためには、どのような理論と実践を進めていくべきなのかを議論する場として、標記のシンポジウムを開催することといたしました。(以下略)
で、13時過ぎに豊島公会堂に行ってみたところ、なんと革命的非モテ同盟の古澤書記長とばったり出くわしたのでした(ご無沙汰してて済みません)。何でも革非同は、「革命的萌え主義者同盟」「革命的オタク主義者同盟」と合同で、6月30日に「秋葉原解放デモ」を行う由。ビラを戴きましたが、まだ公式サイトはない模様。
会場内に入ってみると、結構な賑わいです。1階席が満員になって2階席にも最後は来場者を誘導していたようですから、500人からの来場者があったものと思います。
その会場の入口で、またも知人に偶然出会いました。大学の学部(教養前期課程)時代の同じクラスだった人です。「東京大学オタク物語」にて小生が「コミケ会場の机を挟んで再会した」と書いた方です、ええ。
さらに話が先走りますが、終了後にこれまた偶然に出会ったのが、MaIDERiAのイベント参加時に小生がいつもお会いすることを楽しみにしているサークル・初芝電産の方でした。先日の帝国メイド倶楽部を欠席したのでその時にはお会いできなかったのですが、こんなところで出会おうとは。
ところで、小生はLenazo氏にはお会いできませんでした。考えてみれば氏にお会いしたことがないので、探しようがないのでした(阿呆)
話を本筋に戻します。
豊島公会堂をほぼ埋め尽くす中で行われた「同人誌と表現を考えるシンポジウム」は2部構成で、第1部は来し方及び現状を、第2部は将来の方向について討議を行うということでした。
以下に会場で取ったメモを元に、シンポジウムの内容を略述します。あくまで小生がメモに基づいてまとめたもので、会場での発言そのものではないということをご諒承下さい。文字の大きさが小さく、灰色で書いている箇所は聞いていた小生の勝手な感想です。
〇はじめに
ガタケット事務局の坂田文彦氏が挨拶。
・警察庁の報告書を受けてこの進歩を企画したが、今まで自分たち即売会側では性表現について厳しく対応して来たつもりだが、世間一般へのアピールが足りなかったかもしれない。
・来場者がどのような人々か知りたい、と来場者に挙手を求める。その結果、サークル参加者が約5割、一般参加者が約3~4割(坂田氏は「2~3割くらいですね」と仰っていたような気がするが、小生が見た印象ではこのくらいだったと思う)、即売会関係者が約1割、その他印刷出版関係者などが約1割、という程度の構成比であった。
※小生は一応「サークル」に手を上げておいたが、なるほどコミケ以下各種イベントにサークル参加したとはいえ、やってきたことはメカミリ・歴史・評論・非電源系ゲーム・・・実は同人誌の漫画はあんまり(ほとんど)買わないし、自分は場違いな存在ではないかと少し悩んだ瞬間。
・続いて同人誌生活文化総合研究所の三崎尚人氏が「バーチャル社会のもたらす弊害からこどもを守る研究会」とその中心人物である警察庁の竹花豊氏について解説。要点を述べれば、もっぱら携帯電話コンテンツのゾーニングなどを中心に話が進んでいたのに、第7回の会合のしかも後半になって突如漫画の話になり、しかも出来上がった報告書では、会議における漫画の扱いと不相応に漫画についてのページが多い。
・竹花氏の会議での発言からは、氏が「よく分からん連中が何かやってる」的な印象を漫画や同人誌に抱いてることが伺われる。ただし研究会としては法的規制の提言までには踏み込まなかった。
〇第1部 今、どうなっているのか? ~現場からの発言~
第1部のパネラーは以下の通り。(順不同・敬称略)
中村公彦 (コミティア実行委員会、第1部司会)、武川優 (日本同人誌印刷業組合)、鮎澤慎二郎 ((株)虎の穴)、川島国喜 ((株)メロンブックス)、市川孝一 (コミックマーケット準備会/COMIC1準備会)、武田圭史 (赤ブーブー通信社)
まずは各人から現状に関しコメント。
・武川氏
同人誌印刷業組合には29社が加盟し、オフセット印刷の同人誌の80~85%程度はこの加盟印刷所が刷っている。オフセ本は印刷所の基準をクリアしなければ世に出ない。
印刷所の性的な修正基準はコミケの基準を踏襲しており、このことhが浸透しており遵守されていると認識している。印刷所相互でもすりあわせを行っている。
この基準を外れる原稿に対して、猥褻を理由に印刷を拒否することはなるべくせず、相談して修正するようにしている。基準を知らない印刷所に持ち込まれる事態を防ぐため。
印刷所によって基準が違うこともあり、相互に融通することもある。
・鮎澤氏
虎の穴では同人誌を扱いながら次第に基準を作ってきたが、曖昧なところも多い。
まず作品を見て内容をチェックし、判断している。サークル、印刷所、即売会などと連繋するようにしている。同人誌の性描写の基準は書店単独で決めるものではない。
※あくまでも小生の印象ですが、鮎澤氏は明確に断言することを避けておられたような感があります。
・川島氏
メロンでは一定の基準を定めており、性器描写に消し・ボカシがあれば良しとしている。ガイドラインを設けて18禁と一般とを区別。同人誌を扱う書店にはこのように既に対応されたものが並んでおり、大きなトラブルは記憶にない。
・市川氏
コミケの性描写に関する基準はコミケットアピールで述べている通り。
即売会は対面販売を基本にしており、それによって18歳以下への頒布は防ぎうる。
この二点は会場であるビックサイトや警察にも伝達している。
・武田氏
赤ブーブー通信社のイベントは女性向け同人誌が多いが、女性向けの世界では男性向けの性描写の問題を「対岸の火事」のように思っているところがある。男性向けでは同人誌の表紙に「18禁」を明記するところが多いが、女性向けではそのような意識が薄いというよりない。
コミックシティでは表紙に「18禁」を入れようというアピールを昨年末頃からはじめている。具体的には3月のイベントから。いろいろ模索中。
・中村氏
コミティアはアダルトの比率が少なく、男性向けが5%、女性向けが2、3%くらいで全体で1割以下。あまり性描写に関し神経質になることはなかった。
ここ1、2年修正することがポツポツあるが、印刷所の修正が甘くなっているのか。新規の印刷所もあってこれまでのコンセンサスがずれてきているのか。
以下司会者中村氏を中心に意見交換。
・中村氏:コミケの基準について説明を。
・市川氏:性器の露骨な描写が修正を要する。当日の見本誌をスタッフがチェックし、その中で問題になったものを自分が最終チェックしている。具体的には男性器のカリ、女性器のクリトリスは修正が入っていることが望ましく、その修正はベタなどで全く見えないようになっていることが望ましい。
本全体を見て最終的な判断を下す。18禁をはっきりうたって本のゾーニングをしている場合、奥付がしっかりしている場合は甘めに判断している。商業誌でもコンビニ売りと専門書店向けとで基準が異なるようなものである。
※ゾーニングの基準は納得。しかし剥けてないショタのモノは修正が要らないのでしょうか!?
・中村氏:コミックシティでは3月から取り組みはじめて、参加者に変化は見られたか。
・武田氏:18禁を扱うサークルには、その旨を公示するためのカードを用意して配っているが、サークル自身で表示を用意する場合が多く、予想したよりもカードを配る枚数は少なかった。カードについてはデザイン面での苦情があったりして、一定程度の浸透はしているかと思う。
・中村氏:印刷は甘くなった印象があるか。
・武川氏:最近はカラーが増えたが、カラー原稿の修正はモザイク加工が多く、白や黒のベタに比し「修正」という意識は薄いかもしれない。そのあたりで基準は揺れている。
組合に入っていない印刷所であっても、同人誌印刷でよく知られている印刷所とは交流もあり、修正の基準は分かっている筈。そのようなところも含めると、同人誌を扱う印刷所の97%くらいは入るだろう。データ入稿の普及でどこでも刷れるようになり、新規参入が増えたというが、新規参入したといっても全く聞いたことのない印刷所であることは少ない。
・中村氏:データ入稿によってチェックが行き届かなくなったり、カラー原稿が増えてモザイク修正というような甘さがあるのでは。
・武川氏:問題のあるものがそんなに沢山出てきているという認識はない。問題のありそうなものはコミケ準備会に送って見てもらっている。
・市川氏:時間があれば送られたものは見ているが、サークルは往々にして入稿がギリギリであるため(会場笑)、時間的に間に合わないことが多い。即売会のその場で指摘して修正してもらっている。印刷所と即売会と同人誌取扱書店の連繋は取れており、どこかで止めるようになっている。
・中村氏:書店では同人誌と商業作品と両方あるが、両者の基準は異なっている(二重基準)のかどうか。
・川島氏:商業と同人は別に扱っている。性描写の基準は同人誌の方が厳しいくらい。同人誌の基準は先程述べたとおりだが、メロンの基準はコミケより緩いかもしれない。ただし作品の文脈上、展開上の意味を踏まえて柔軟に判断している。『フランダースの犬』の最後で、舞い降りてくる天使の股間にボカシがあったら興ざめである(会場笑)。問題のあるものは世に出していない、サークルはどこでも相談してほしい。
商業については入荷したものを売るだけ。
・鮎澤氏:すべてチェックし切れているわけではない。販売してから問題が分かることもある。
サークルとの関係については、サークルをクリエイターとして尊重することが基本である。それでもどうしても調整がつかないときは販売をやめることもある。チェックを何重にもして漏れのないようにしているし、基準について広報運動も行っている。
・中村氏:同人誌の基準は他を見ながら横並びでやっていることが多いので、商業誌とは異なるかもしれない。商業誌の場合は確信犯的な場合もあったりする。
修正に関しトラブルが起こったことはあるか。
・市川氏:「何で塗るんだ」というトラブルは、コミケ2回につき1回くらいある。最近は女性向けに修正が多くなりつつあり、前回のコミケでは遂に男性向けより多くなった。やおい・ジュネ系が過激化しているが、女性は男性器に修正を入れるという意識が薄い。
・武田氏:女性向けでは性描写の問題を、先程述べたように「対岸の火事」とみている。2~3年前のことだが、サークルで18禁と猥褻物との区別がついていないところが多かった。18禁は年齢を過ぎればいいが、猥褻物は何歳になっても同じことである。
・川島氏:女性向け専門の同人誌書店もやっているが、女性向けの同人誌は過激なものと、いわば「官能的」なものとに二分される傾向がある。
・市川氏:女性向け同人誌にはロマン(笑)なのと、ガチなエロのとがある。ガチなのは商業やおいの男性器には修正がないのを見て、同じ様に作ってしまう。コミケ基準と商業とは違う。最近は女性向けの方が修正で揉めることが多い。さらに、同人誌に奥付がないところも。
※やおいの話題はこの後も出て、同人に占めるウエイトを考えれば重要なテーマ。にもかかわらず今回のパネラーにはやおいのエキスパートといえる人がいなかったのではないかと思う。女性のパネラー自体一人しかいなかったし。
・中村氏:奥付のないことが近年多い。自分のような古い人間にとっては住所を書くのが当たり前だったが、最近は個人情報保護やストーカーの問題などで住所は書かなくなった。しかし、何らかの連絡手段を示して責任の所在を示す必要があるのでは。
・市川氏:サークル名、メールアドレス、発行年月日は最低入れて欲しい。印刷所では奥付についてサークルに指導したりはしないのか。
・武川氏:徹底していないかも。URLとかだけ入れればいいような。
最近は奥付に印刷所を入れないことが多い。メアドやURLは英文字ばかりなので、漢字名の印刷所が入るとデザイン上不似合いという理由もあって。
・市川氏:印刷所の名前を英語に変えては(笑)
・中村氏:印刷所としては自分の仕事なので入れて欲しいところだろう。
・中村氏:コミケ誕生以来、同人誌に30年以上の歴史はあるが、参入や退出が多く、爆発的に拡大したこともあって、過去の経験が必ずしも伝わっていない。それがこのシンポ開催の理由の一つでもある。
警察庁の研究会の報告が今回のシンポの直接のきっかけで、警察当局は自主規制などをさせたがるが、個人の活動が基本である同人の世界に、なるべく自主規制的なものは作りたくない。
以上、およそ一時間で第1部は終了し、休憩を挟んで第2部へ。
で、長すぎて一つの記事に入らないので、続きは別の記事に。
※追記:古澤書記長のTB記事に対する更なる返信記事はこちら。