暑気あたり 附:車中点景・やおい篇
駆け回って帰宅の際、荷物は多いし気温は高いし、駅からバスに乗って帰ることにしました。バスはそれほど混んでおらず、座ることができました。小生の前の席には、黒い和服に身を包み、医療用らしいアルミの杖をついたお婆さんが座っていました。こういっては失礼ですが、少々御髪が薄くなっておられ(杖から察してもご病気なのかも)、結構なお年と拝察しました。バスに乗る際に横浜市の敬老パスを出していましたから、少なくとも70歳以上であることは確かです。
で、走り出したバスの車内で、そのお婆さんは手提げ袋からなにやら書物を取り出し、老眼鏡をかけてぱらぱらとページをめくっておられました。巻末によくついている、既刊の書籍の案内ページのようです。いつもの癖で自然と目が行きます。
小生は目を疑いました。
どう見てもやおい本です。
お婆さんが見ていた本は、アルルノベルスなるレーベルの、妃川螢著・実相寺紫子絵『恋におちたら』という作品でした。
これはもしかして、やおいを好む女子、いわゆる「腐女子」のさらに進化した「腐婆」・・・というのはなんか失礼だし麻婆豆腐みたいだし、「腐媼」なんて表現でどうかとか暑さにうだった頭で一瞬考えてしまったのですが、冷房で頭を冷やして冷静に考えるに、おそらくこの著者か絵師がこのお婆さんのお孫さんか何かに当たるのではないかと、そのような仮説を立ててみました。実際お婆さんは、巻末の既刊案内ページを中心にぺらぺらページを繰っただけで、本文には碌に目もくれずまた手提げ袋に仕舞い込んでおられましたので。
実はこの一件で小生が気になったのは、お婆さんがやおい本を持っていることよりも、巻末の既刊案内にあった次の本でした。
宮川ゆうこ・桜遼『レールウェイポリスに口づけを』
やおい本で鉄道を舞台にしたものが幾つかあるらしいとは聞いておりましたが、最近アニメ化もあって耳にする鉄道好きの女子の方々、いわゆる「鉄子」の方々の中には、このような作品を好ませ給う方もおられるのでしょうか。
ま、鉄道は(最近はともかく)男ばっかりの職場の代表的なものでしたから、やおい作品の舞台としては結構使いやすいという事情かもしれません。昨今の「鉄子」流行がそれなりに深いものなら、より本格的な設定の鉄道を舞台としたやおいものも売れるかもしれませんね。小生もひとつ考えてみましょう。
・・・それは国鉄がまだあったころ、駅員と乗務員の間に生まれた禁断の愛。なぜならば駅員は国労、乗務員は動労。労労紛争が二人を引き裂かんとすればするほど一層愛は燃え上がる。数少ない理解者(でひそかにどっちかに惚れてる。ここの微妙な関係が中盤の肝か)の助役が下位職代行して二人の愛を支えていた。しかしそこに襲いかかる
社会派やおい小説として如何でしょうか。
つまりバス車内で見かけたやおい本案内と、最近起こったJR社員の新幹線投身と、長いこと積んでおいてやっと最近電車の行き帰りにさらっと片付けた葛西敬之『未完の「国鉄改革」』の印象とが、蒸し暑い気候によって脳内で蒸された結果、かかる妄想が生まれたということです。
・・・あー、おとなしく戦前の私鉄の経営分析に戻ることとします。
新幹線投身は我が友人の同僚だったらしく、職場は騒然としたそうです。
つまり売れないということですな。
>某後輩氏
鉄労まで登場させるとややこしくなるというのもありますが、やおい的にどういう関係にすれば良いのか一冊も読んだことがないのでとんと分からず。
東海の職場も、西日本や東日本とは傾向は違っているにしても、何らかの問題を抱えているのでしょうか。

