「ヒゲの隊長」は誰の利害を代表するのか
まずお断りしておかなければならないことは、今回の参院選の期間中、小生は多忙にてろくに選挙関連の報道に目を通しておりませんので、イラク派遣自衛隊の隊長から転じて今回の参院選で自民党の比例代表から当選した佐藤氏が如何なる選挙運動をしておられたのか、よく承知しているわけではありません。ただ、無名さまなどの方から伺うには、どうも自衛隊っぽい格好? をして、自衛隊施設の前で演説したりされていたそうですね。また確か、比例の代表の中では、新人としてタレント候補でもないのに(?)相当の得票をしていたかと思います。
で、これについて、左翼で平和主義者でミリオタな小生としては、ああ宇都宮徳馬先生が栗栖弘臣を打ち破った時代は遠くなりにけり(27年前か・・・)とまず思ったのでありました。栗栖を担いだのも民社党であって自民党ではなかったことからすると、時代も自民党も変わったのだということですね。思えば栄光の時代の自民党は、左側に宇都宮先生まで抱え込んで平然と政治やってたんですから大したもんだったんだなあ、とつくづく思います。小生は政治学にはとんと疎いですが、自民党はそのヌエ的性格(政治の場合は必ずしも非難の言葉ではない)から長期の政権を維持することができたのだろうと素人なりに考えます。しかしまあ、いまや自民党はその性格を振り捨てようとしている――少なくともやたらと敵を作りたがることを「毅然」と勘違いしている安倍政権の運営は――ことからすれば、とっとと政権も振り捨てればと思うのであります。
話を戻して、で、「ヒゲの隊長」に投票した人たちはどういう人たちで、どんな期待を込めて投票したのかということは、検討するだけの価値があると思います。
ここで「在郷軍人会」という言葉を無名さまが出されており、また某後輩氏が「得票数が自衛隊の定員とほぼ一緒で、陸自の駐屯地がある道県で集中得票しているという分かりやすい結果」と指摘されています。小生は既述のように今回の選挙の諸事情に通じているわけではまったくありませんが、これらの信頼できる方々からのご指摘からすると、「ヒゲの隊長」氏は自衛隊員を支持層として固めようとしていた、ということなのでしょうか。だとすれば、手法としては極めて伝統的な選挙戦ということになり、かつて自民党が建設業界や郵便局の票を当て込んだり、社会党が労働組合の組織票を集めたり、学会員が公明党に投票したりするのと同じ構図になります。
で、こういう構図で議員が送り込まれるのであるなら、むしろ外交政策に際しては慎重に対処する方針を取るのではないかと思われます。もし憲法改正をして自衛隊が海外の戦地に派兵された場合、戦死するのは支持団体の人、ってことになりますから。
この場合、自衛隊代表議員のなすべき仕事はむしろ、「現業公務員代表」としてその待遇改善にカネを出させることになるでしょう(正面装備費ではなくて)。これは行政改革という方向からするといささか難しいでしょうし、無名さまのご指摘「現役は別としても、退役者はあまりにも恩典が無い」からすると、既得権を守る以上のことが必要そうで、他の権益団体代表に比べてもなおその仕事は大変かもしれません。将校についてはまた別の論があるかもしれませんが、人数的に大部を占める下士卒の場合はこのように考えられます。
自衛隊を現業公務員団体として考えたとき、教師の事例を参酌してみます。
この場合、ヤンキー先生的思いつき「教育改革」に現場の先生を振りまわさせて疲弊させるより、ごく正攻法で現場に多くの予算と人材を与えて環境を改善させるべきではないか、という指摘が識者(苅谷氏や広田氏など)によってなされています。同様に国防についても、その構成員個々の待遇を改善することで、自衛隊員が麻薬でラリって憂さ晴らしをしないですむようにすることは、国防の根幹を強化することに直結するのではないかと思います。
ことに、こういうことを書くのはあまり上品ではないかもしれませんが、徴兵制でなく志願制の軍隊の兵隊に、高度に発展した経済を持つ国で身を投じる人々の社会階層を考えた場合、それはもっと考えられるべきことではないかと愚考します。
そういえば、わが国で軍隊が待遇への不満で叛乱や暴動を起こしたのって、竹橋騒動以来なかったような・・・これは結構珍しいことかも。
しかしどうも、今回の「ヒゲの隊長」に投票した人は、このような層には限らないんじゃないか、違ったタイプの投票者もいたのではないかと、小生にはそのように思われるのです。つまり安全保障問題での活動を期待しての投票が一定数あったのではないかと思うのでして。
これはいささか偏見があるとは自覚しておりますが、「元自衛隊」「イラク派遣隊長」という肩書きから投票した方々が対外政策に期待するものを推測するに、やはり対外硬・・・って用語は戦前のものですが、そういう方向である蓋然性が高いと思われます。しかし、上に書いたように、実はそれは自衛隊の構成員(下士卒)の利害とは必ずしも一致しないかもしれません。「ヒゲの隊長」は、どちらの代表者として行動することになるのでしょうか。
小生が思うには、無名さまがご指摘されているような「カリスマ的な元自」登場による政治勢力は、自衛隊下士卒のような階層の不満を結集して何かに振り向けることに成功した場合であろうと思います。それはおそらく、対外政策以上に国内的な攻撃も含むことになろうと思われます。そしてそこに結集する層が自衛隊外の、社会に不満を持つ層とくっついたとき、もしかすると「悪い冗談」の事態が出来するかもしれません。
もっとも、「元自衛隊」「イラク派遣部隊長」という肩書きに何がしか現状の自己の不満を託すような階層のメンタリティを斟酌するに、その多くは宮台真司の表現を借りれば「ヘタレ保守」ということになるのではないか(そういった力に自己を投影することで不満を解消しようとする)と思われるので、その結集は案外脆くすぐ崩れてしまうようにも思われますが。
どうもまとまりませんが、こんなところで。
どうにか、大学に通学させてくれようとしたりして、よい人でしたが、家庭内の事情と、隊舎内の事情がごちゃ混ぜになり、おかしくなったのでしょう。
小生が、製造派遣にいたときですが、航空の生徒出身で元パイロット、視力低下により、管制官、さらに視力低下により実質上のクビ、奥さんが逃げ、アル中、子持ちという最早、特攻機にでも乗せて、靖国に入れてやったほうが幸せな人がいました。
他には、防衛庁、3種出身(こちらは幹部とはとても言えませんが)、手取額の安さに耐えかね、退職、アル中という人もいました。(小生と、この2人が派遣会社でいっしょに働いていました。)
小生が、青年団の会報や日記、中里介山関係の文献にあたった限りでは、貴下の言われえる通り、在郷軍人が最大の反戦団体でした。
>手法としては極めて伝統的な選挙戦
個別利益の代表を参院全国区/比例区から送り出すという点では伝統的な手法ですが、その中でも今回は一定の変化が見られます。これまでは組織票の受け皿として各々の利益団体と関係が深い中央省庁の元キャリア官僚が擁立されてきましたが、近年では各団体の集票力の低下とともに官僚出身候補の落選が目立つようになりました。そこで各団体の一般構成員にとってより身近な組織内候補を擁立して得票を伸ばそうとする動きが今回出てきたんです。
その代表例が今回自民党で舛添要一に次いで党内2位で当選したJA全中出身の候補であり、佐藤一佐の擁立・当選もその流れの一環として理解することができます。(確か6年前の参院選では自民・民主・自由の3党からそれぞれ防衛関連票を狙って防衛庁の元キャリアが擁立されたんですが、やはり内局官僚では自衛官の心は掴めず誰も当選しなかったと記憶しています。)
アメリカの例ですが、実際に御説に近い方向で軍出身議員は動いているようです。去年の中間選挙で(米国の)民主党はイラク帰りの元軍人を多く擁立しましたが、彼らが訴えたのは現政権の稚拙な戦争マネジメントであり、戦地から帰国した兵士達が置かれた劣悪な待遇でした。現在アメリカでは退役軍人省が管掌する傷病兵用の医療・支援サービスがあまりに予算不足かつ門戸が狭いということで社会問題化しており、さながら日本の社保庁問題のようです。
ただ日本の場合、「待遇改善」という要請には退役者に対する社会経済的支援に留まらず、現役将兵が海外に派遣される際に彼らを危険に晒すような法制度や運用上の制約を取り払うという要求も含まれそうですね。それこそイラクへの陸自派遣が決まった時に、自民党の国防族議員が現行の武器使用基準で隊員の安全が確保できるのかと疑問を呈したように。現場の声を国政に届けるということは、必然的にこのような政治的にデリケートな問題も提起することになると思います。
こればかりは出口調査なり何なりの調査結果を見ないことには分かりません。ただ私自身、直前まで佐藤氏に投票しようか迷っていたのは事実です。(最終的に、新聞各紙の情勢調査で彼が通りそうなことが分かったこと、結局は自民党の票になることなどの理由で票を入れませんでしたが。)そんな私も対外硬ということになるのでしょうか。
『自衛隊下士卒のような階層の不満を結集し[た]……層が自衛隊外の、社会に不満を持つ層とくっついたとき、もしかすると「悪い冗談」の事態が出来する』という懸念をbokukouiさんは抱かれていますが、これはどうでしょうか。どうも私の目には、「彼らに政治参加の道を与えると必ずや徒党を組んで日本に仇を成すに違いない」という理由で在日コリアンの地方参政権付与に反対する論調と相似した論理に思えてなりません。
アメリカは、労働団体そのものが予備役軍人に乗っ取られているようなものでしょう。
また、公務員の任用資格に、名誉除隊を指定している州もあり、かなり特殊だと思います。
というニュース映像を発見したのですが、これを見ると(編集側の演出が入ってるとはいえ)佐藤氏の文民政治家としての適格性についてちょっと疑念を抱かざるを得ないですね……。詳しくは控えますが、自身が置かれているデリケートな立場を省みず無用な誤解を与える行動をとるのはあまりに軽率すぎます。
小生は、少し貴下とは異なる考えです。
おそらく、大佐殿は、票田となる現役、予備、官補などの隊員に向けこの言葉を発したと思います。
現役隊員は、先任や付准尉、中隊長が実質上の「命令」をすれば彼やその仲間に投票をするでしょう。(憲法や隊法はどこへ?。)
官補は高い社会的地位を擲つ可能性を省みず志願してくる自称「愛国者」の集まりでしょうから(医者、薬剤師、パラメディック、管理者たる一級自動車整備士が緊急時に自らの職場ではなく自衛隊に合流するというのは普通ならばクビでしょう。)現役と類似した投票行動をとると思います。
問題なのは、予備自衛官たちですが、、かなりの割合の人々が、娑婆で面白い人生を送れているとは言い難いようです。
皮肉なことに、彼らにとって、定期訓練は、娑婆での現実を忘れさせ、擬似的な「仲間」を確認する場となり、日当以上の魅力があるようです。
そのような彼らにとり、法に触れても仲間(この場合はオランダ軍。)を助けるという考え方は、義侠心や仲間意識を刺激すると言えるでしょう。