近藤喜代太郎『アメリカの鉄道史―SLがつくった国―』略感
さて、昨日買ったと書いた表題の本ですが、今日には読み終わってしまったので簡単に感想をば。
近藤喜代太郎
昨日買って今日感想を書いているように、大変読みやすい本です。写真が多いのは見ていて楽しいところ。手ごろな厚さの中に、アメリカの鉄道に関する情報を一通り揃えており、これまで日本語で読める一般の類書がほとんどなかったような(旅行記的なものや、ある時代のみを取り上げた本、個別的な事例研究、政策論などはありました。また本書と性格の似た書物に辻圭吉『米国鉄道歴史物語』というのがありますが、私家版なので市販されませんでした)感がありますので、まず何よりもこういった本が出たこと自体が大変喜ばしいことと思います。
同じ成山堂から出た海外鉄道歴史ものとして、高畠潔『イギリスの鉄道のはなし』という本があり、この本は続篇も出ています。小生も森薫『エマ』の話をするついでにこの本を紹介したことがありますが、この本と比べると『アメリカの鉄道史』は、あまりアメリカ万歳的なところが感じられず、その点では読む上で引っ掛かることは少ないです。また、『アメリカの鉄道史』は、社会一般の情勢の中での鉄道の位置付けということに大いに留意しており、また技術についても章立てを別にして解説、その点でもひたすら鉄道(≒蒸気機関車)ばなしの『イギリスの鉄道のはなし』より一般性があると思います。
まあ、その分話が薄くなってしまっていることは否めません。イギリスのそれに倣って本書もマニアックな続篇が出れば嬉しいところで、今までアメリカの鉄道に興味のなかった人にも手にとられて関心を持たれるきっかけとなればいいのではないかと思います。
小生としては、こんな本を読むと、ボードゲームの『1830』をやりたくなってきます。このゲームの好きな方(戦史研方面)などは、購入を検討されてはいかが?
備忘として若干読んでいて? と思ったところを幾つか。
・p.55の地図は、「1989年の状態」とキャプションにあるが、地図中に「1930」と書かれている(記載内容からして1930年が正しいと思われる)。
・p.76で、グレート・ノーザン鉄道について、補助金代わりに与えられる土地が「特段に多かった」、図III-2で「供与地の幅が異常に広い」とあるが、それはノーザン・パシフィック鉄道の間違いではないか。
・p157で、蒸気機関車の軸配置表記法のホワイト式を「日本ではホワイト式には不慣れ」とあるが、日本でもホワイト式は良く使われている。著者が「欧州式」と言っているのは、欧州は欧州でもドイツ式ではないか(日本の国鉄式はドイツ式と大体同じ)。フランス式では動輪の軸数も数字で表記した筈。
・p.167で、スティーブンソンの「ロケット号」について「後にスティブンソン式と呼ばれた弁装置」を備えていたとあるが、カットオフが調節できる所謂スティーブンソン式弁装置の完成はもっと後ではないか。
・技術に関する章には写真はあっても図がないため、文章だけで意を汲み取ることは難しい。ここらへんは斎藤晃『蒸気機関車200年史』でも読めば・・・(そういえば、参考文献に斎藤晃氏の前著や、加山昭『アメリカ鉄道創世記』がないのはちょっと不思議な気も)。