原田勝正先生亡くなる
日本鉄道史研究の和光大名誉教授・原田勝正さん死去
謹んでご冥福をお祈り致します。
ちょっと検索してみたところ、ネットでこのことに触れている鉄道趣味者のブログなどが案外少ないので、いささか寂しく感じました。「鉄道ブーム」といわれるご時世だとはとても思えません。原田先生の業績については、小生以前の記事で青木栄一先生との関連から少し書いたことがありますが、ウィキペディアの記事が著作目録だけで、新聞の訃報も『日本国有鉄道百年史』編纂に触れていないのが残念です。(追記:新聞の訃報が消えたのでウェブ魚拓に切り替えました)
一度だけお会いしてお話を伺ったことがありました。著書『日本鉄道史 技術と人間』(刀水書房)について、青木栄一先生のご紹介で、何人かで原田先生を囲んで質問などしたのです。小生は緊張してあまり話しませんでしたか。今混沌とした部屋の中で、当時のメモが見つからないので詳細は書けませんが、一つだけ思い出したことを。
同書の中で、原田先生は日本の蒸気機関車技術の自立のポイントとして、鉄道国有化直後幹線の急行旅客用に同時にまとまった数輸入された8700形・8800形・8850形・8900形を取り上げていました。で、確かにこれは技術上重要な車輌たちだけれども、英米独からの輸入機であるから、「自立」といっていいのか、国産標準機の8620形・9600形ではないのか、という質問が出たのです。
原田先生は、輸入であっても発注者に明確なポリシーがあって先端技術を導入すれば自立と呼べる、と仰ったかと思います。確かに国産標準機の技術はこれら輸入機をなぞったものですし、また南アフリカの事例なんかを思い浮かべても納得できます。
で、原田先生はその時次のような例を挙げられました。
「同じ時代の日本で言えば、金剛がそうですよね」
小生はそのひとことでなるほど、とすっかり納得したのですがその場にいた他の人たちの中にはピンと来なかった人もいたようでした。
金剛は当時日本がイギリスに発注した巡洋戦艦で、世界最大最強クラスの軍艦でした。日本はこれをモデルに同型艦を3隻作り、十年経たずに世界最大最強最高速の戦艦・長門を送り出しました。が、まあ鉄道マニアだから軍艦に詳しいとは必ずしも言えませんよね。原田先生は青木栄一先生の連れてきた連中だから、と思ってそう例示されたのかも知れませんが(笑)
鉄道という一つの高度な技術で築かれたシステムを知るには、同様の他のシステムのこともある程度は知っておきましょう、というのがこの教訓でしょうか。
原田勝正先生が翻訳に関わったD.R.ヘッドリク『帝国の手先』(日本経済評論社)という、とても面白い本があります。19世紀の欧米列強による新技術開発と世界の植民地化の関連を、様々な技術を挙げて叙述しています。交通・通信・兵器が主ですが、中にはマラリアの特効薬キニーネ(これが出来たお陰で白人がアフリカ奥地に入り込み植民地化が進んでしまった)の話などもあり、大変興味深い本です。
いつぞやネタにしたジェフリー・パーカー『長篠合戦の世界史』の前書きで、パーカーはこの本を「読み始めたらやめられなくなるほど面白い」と賞賛しています。そして、19世紀初頭に世界の2割を支配していたヨーロッパ人が如何にして百年で世界の8割を支配するに至ったかを述べている本書に対し、自分は16世紀から18世紀までにヨーロッパがどうやって最初の2割を獲得したのかを述べるのだ、と書いています。なるほどパーカー教授の本もとても面白いことは確かですが、話の幅の広さではヘッドリクの方が上かも知れません(時代の制約はあるでしょうが)。一つの分野を長く追っかけることは大事ですが、類似性のある分野も知っておくことは大事ですし、何よりその方が面白いのです。
・・・と偉そうに書いている小生も、別段技術史とか交通産業全般に詳しいわけでもないですが。自動車なんか特に疎いので、最近友人諸氏にいろいろ教わっております。
話が逸れました。
昨年には久保田博氏や吉川文夫氏が亡くなりましたが、戦後日本で鉄道に関する情報の集積・普及に活躍された最初の世代の方々が次第に鬼籍に入られることに時代の流れを感じます。斯界が先学の業績を受け継ぎ発展させることができるか、大事なところです。こと昨今の鉄道ブームとやらを見るにつけ。
と、ひとごとみたいに書くわけにはいかないのですが。打倒原武史のためにも、早く論文書かないと・・・
新聞に訃報が出ると、かえって関係者への連絡がなおざりになりがちなので、まだ知らない人が多いのかも。
ちなみに朝日の訃報記事は直ぐに消されるので、リンク先には不適当かもしれません。
かつてのように、商社として隆盛を誇り、日本の文化に大きな影響を与えた時代ならばもう少し大きい扱いになったと思います。(ちなみにアラジンのブルーフレームはヤナセが輸入していた時代が長かったです。)
アラジンのブルーフレーム、うちにも昔ありました。今では面倒がってガスストーブ主体になり、文字通りお蔵入りしてますが・・・あれもヤナセでしたか。
今は一時ほどの力はないでしょうが、これまで積み上げてきた影響は相当ありそうですね。それは正当に評価されるべきでしょう。
まあ死んで鞭打つような内容も混じっていますが
「氏にとって車とは雇い人に運転させて後部座席に座っているべきもので、スポーツカーは基本的に扱わないか、不当に高い値段をつけた」
「ある時期から難聴で、殆どインタビュアーと対話が成立しなかった」
あと、ヤナセは人を切りすぎました。
ただでさえ、士気と収入両面で実力のある人(エッジ過ぎる人も)独立してしまう整備業界でリストラというのは前代未聞です。(日本では月給制且つ、残業代は実質無支給。アメリカでは請負給なので手が早く顧客の指名がかかる整備士は青天井の収入。10万ドルはざらで100万ドルクラスもいます。ただし文盲に近いメカニックも存在します。)
自動車雑誌関係者はそのせいもあり悪意がある可能性があります。