国立公文書館通いの日々~「病と医療」展・鮭缶とビスマルクなど
ゼミ報告も近いので連日のように公文書館に行っておりますが、昨日は行ったついでに展示会を見てきました。昨日で最終日だったもので。
春の特別展「病と医療-江戸から明治へ-」
立派なパンフレットも無料配布されていて、しかも水・木は午後8時まで展示会を公開している(公文書館自体は本来午後5時閉館)という力の入れようでした。公文書館の展示会に来るのは、鉄道関係文書の展示会で原武史氏の講演会を聞きに行って以来でしょうか。
展示会はなかなか面白かったのですが、ただ出展物の中心はどっちかといえば古典籍類で、「公文書」というのはそれほど多くはありませんでした。その中にあった、江戸時代大名が湯治の許可を得るための文書や、大奥で診療する医師が出した誓文だとかが目を惹きました。古典籍類ももちろん面白く、江戸時代の薬屋の広告やら(明治~戦前の広告でも類似のセンスがある)、或いは養生法だとか(房事の話が・・・)、いろいろありましたが、その中で唸ったのはこれも江戸時代の多色刷り版画で、コレラが流行して死者が続出、次から次へと焼場に棺桶が運び込まれて手が回らず、棺桶が山積みになっているという絵。駕籠真太郎先生のファンとしては大いに感じ入った一枚でした。
展示には常設もあります。今は憲法の他、公文書館にまつわる法律の展示がされていました。支持率低下の著しい福田首相ですが、公文書保存については理解のある政治家ということで(前にも書きましたが、「歴史を大事に」というのであれば当然こういった方面への支援を強化するはずですが・・・)、公文書館もアピールに力を入れているのでしょうか。
また、公文書館の仕事をアピールするビデオもあってつい見てしまったのですが、所蔵されている公文書の紹介で一番最初に登場したのが鉄道省文書でした。これは私鉄についての監督書類をまとめたもので、鉄道趣味者の閲覧も多く(例えば車輌の図面があるので、写真も碌にない昔の軽便鉄道の車輌なんかを模型化するときの資料になる)、一時つくばの分館に移管されていたのが竹橋に戻ってきたという史料です。やはり人気だから最初に登場したのかな?
さて、別に見物に公文書館に行ったわけではなく、史料調査に17時の閉室まで粘って帰りに覗いてきたのであります。調べていたのはもっぱら明治初年の大蔵省紙幣局(現国立印刷局)に関連するものでした。
紙幣局は、今の印刷局がそうであるように、勿論紙幣を印刷していたのですが、当時の日本は近代印刷事業が生まれたばかりで関連産業も乏しく、自分でインクや様々の機械類なども造っていたそうです。印刷物も実にいろいろなものを造っており、紙幣の他時代柄地租改正の地券(半年で3800万枚も刷ったとか)や金禄公債証書なんかを刷っているのは当然としても、記録を見ていたらこんなものが。
「鮭鑵化装紙 五千四百三拾五枚 開拓使ニ送付ス」
へーこんなものまで、と思ったら引き続いて、「麦酒符標 17250枚」「鹿鑵化装紙 9100枚」が開拓使に送られておりました。
あとで缶詰産業史について論文を書いた人に話を聞いたところ、明治の初めに開拓使で缶詰生産を試みたものの技術が未熟でうまくいかず、開拓使の事業を払い下げた後は受け継がれず途絶えてしまったのだそうです。にしても鹿の缶詰。馬肉コンビーフの缶詰と詰め合わせにして贈りたい(笑)
他にも大学の賞状から小学校の成績表まで、いろんなものを刷っておりましたが、面白いのが「ビスマルク像」。これが百枚単位で刷られておりました。明治初年の日本人に、ビスマルクの威光がどう感じられていたか、示唆されますね。
しかしビスマルクに次いで「ピイトル」「ラルストン」の像というのが印刷されていたのですが、これは一体誰のことなんでしょう?
※4.28.追記:「ラルストン」はカリフォルニア・バンク頭取のラルストン像と思われます。これは石版画で、原版を作ったのは明治天皇や西郷隆盛の絵で有名なイタリア人・キヨソネでした。(近藤金廣『紙幣寮夜話』原書房1977、p.195)
しかし、何のためにアメリカの銀行の頭取の石版画を量産したんでしょう?


Qマークをもらうためには(米国のミルに準拠しています。)平成に入るぐらいまでは苦労をしたようです。(缶詰だけではなく、オイル、燃料、被服等すべての物品です。)
湯治や鍼灸の治療許可ですが、久我家文書だか何かで見た記憶があります。(公家や親王のもの。)
恐らく、盲官を統括していた絡みと、武家伝奏や議奏を勤める家柄だったせいだと思います。
そんな史料がありましたか。なるほど、牛缶は日本軍の兵食の基本ですから(初期の缶詰産業は宇品に近い広島の牛缶で発展したとか)、そういう研究もされていたんでしょうね。
>無名さま
缶詰の技術も結構難しいんですね。
公文書館の展示はなかなか面白いので、折があれば見に行かれては如何でしょうか。