「マンガ論争勃発番外編-表現の自由と覚悟を問う」レポ(2)
松浦氏
「『児童ポルノ』の定義をしっかり定めないといけない。例えば、ジャニーズの男の子の上半身の裸はどうなのか、あれに黄色い声援を送る女の子たちは性的なものを見ているのではないか、そういう議論が国会でされている」
永山氏
「国会すげえな」
ダニエル氏
「しかしそういった議論をすっとばして、法案をハンセンは通したがっている。『最優先課題』として」
永山氏
「テロよりも?」
ダニエル氏
「テロよりも。
元々人身売買の取締からはじまった面があり、この点はもっとしっかり取り締まるべきと自分も思うが、しかし児ポ法については子供の権利を守るという視点がどこかへ行ってしまっている」
昼間氏
「児ポ法は管轄官庁が決まっていない」
松浦氏
「子供の権利の専門家に、ヒアリングをしたことがある。その時、専門家の意見では、これは法務省が扱うべきではなく厚労省が扱うべきである、と。子供の権利の保護なのだから」
ダニエル氏
「実在しない児童より、実在する子供の権利を守るべきだ」
昼間氏
「なぜこのことに政治家は気がつかないのか」
松浦氏
「『政治家の人たちには正確な情報がないから、情報をあげれば』という声をネットなどで見かけることがあるが、全く違うと思う。政治家そのものの質はさておき(会場笑)、公費で雇われる制作秘書もいるし、官僚からも情報を集められる。知った上で、規制すべきだ、となる」
ダニエル氏
「アメリカでこういう話をすると、evil(邪悪)という声がよく聞こえる。こんな邪悪なものが存在していることが、自分の自尊心上許せない」
永山氏
「十字軍か」
ダニエル氏
「そうです。一神教の悪い面。麻薬でも、国内問題なのにコロンビアに軍事侵攻したりしている。
ハンセンは『世界の児童ポルノは日本のせいだ』と言っている」
昼間氏
「アメリカ帝国主義との決戦が迫っている」
松浦氏
「情報を分かっていても、結論では規制に賛成してしまう。生まれ育ちの文化で決まってしまい、右の人は右なりに、左の人は左なりに(註:自民党・民主党だったかも)。どんな情報を入れてもダメ」
ここで会場内から、「日共はどうなのか」という声が上がりました。
昼間氏
「共産党は分からない(註:分かっていない、だったかも)。広報からよく分からない返事が来る。
永山氏
「マンガ論争の本の時、志位さんにも取材しようとした。そうしたら代々木の広報に回されて、結局よく分からない返事が送られてて来た」
昼間氏
「共産党は共謀罪に反対しているが、共産党系の新日本婦人の会は児ポ法の強化に賛成している」
ダニエル氏
「子供は宝だから、子供のためには何でも、という風潮。かえってためにならない。しかし、このようにはじめに結論ありきとはいえ、有権者の声で少しでも変わらないか」
松浦氏
「マンガやアニメ好きは有権者と思われていない。去年の参議院選挙(註:松浦氏もこれで当選)で、民主党は地方で票を伸ばしたが、地方は若い人が少ない、姿が見えない。見えるのは若い母親、PTAのような。それから青年会議所。そういう人たちの声を聞く。多くの議員は地方出身で、この児ポ法と表現の問題自体見えていない」
昼間氏
「そういう人がいることを知らないと」
永山氏
「その通り。政治家に話をする上で一番簡単なのは『何票用意できますよ』なのに、コミケの何十万もの人出も子供と思われている」
○ここから話は、コンテンツ産業振興の方へ。
ダニエル氏
「経産省の官僚などは、アニメや漫画などのコンテンツ産業が経済的に大きいということは知っている」
永山氏
「この児ポ法強化による規制はコンテンツ産業の振興という国益に反する。政治家はそのことを分かっているのか」
松浦氏
「携帯電話のネット規制で総務省が先走って、そのため携帯電話会社の株価が急落した。しかし、何も政策は変わらない。国益よりも子供の安全」
永山氏
「何というすばらしい(苦笑)」
ダニエル氏
「しかし抽象的な安心でしかない」
松浦氏
「子供の安全というより親の安心」
永山氏
「しかもサボってる親の。子供と話が出来ていればいいことなのに、自分では面倒見切れないとお上に投げてしまう」
松浦氏
「これに対しては携帯電話の業界が反発し、議論が起こった」
ダニエル氏
「ユーザーの声ではなく、業界の声で動くところが・・・」
永山氏
「マイクロソフトやヤフーなどは、日本ユニセフ協会の『STOP子どもポルノ』キャンペーンに参加しているのに、自分たちがネット規制になると反対になった」
昼間氏
「国会の状況はどうなっているのか」
松浦氏
「無茶苦茶に厳しい案、高市早苗が中心となっている高市案というのがあり、それに対し業界の意見を汲んだ緩い案がある。民主党案はその中間。
業界に『有害』の規定をゆだねる方向(註:これは高市案も含まれているのかは、メモの不備で分かりません。後刻分かったら直しておきます)。金を出させてメディアリテラシー教育をする必要はあるだろう。専門家を呼んでヒアリングしているが、具体的にどう動くのかは未定」
昼間氏
「トンデモが直ってきた。
アメリカではネット規制はどうなっているのか」
ダニエル氏
「アメリカの規制は出るたびに最高裁が違憲としている。いかがわしい情報に子供がアクセスするかも、というだけで規制するのはおかしい、という点で一貫している」
昼間氏
「アメリカの裁判所はよく違憲判決があるが、日本はそうはいかない。メイプルソープ事件のような例は少ない」
ダニエル氏
「日本の、残念ながら悪いところは、官に任せるとあとは警察の適当な運用に委ねてしまう。児ポ法の本来の趣旨から言えば、子供のことが大事で猥褻かどうかは同でもいいことのはず。このような警察の権限強化による弊害の可能性について訊かれたアメリカ側は、そういった恣意的な運用を行うのは腐敗した警官だけであり、法があろうと無かろうと関係ない、としている」
昼間氏
「警察が点数稼ぎで気にくわない者を挙げる、そういうことが考慮されていない」
永山氏
「単純所持の違法化で怖いのは通報制度」
昼間氏
「ネット規制と通報制度は近年韓国で出来たのだが、結構通報があるという。韓国の業界はこれをフィルタリングソフトのビジネスチャンスと捉えている。先日取材していたら、韓国のソフト会社が日本にフィルタリングソフトの売り込みをしていた。それが新しい発見だった」
ダニエル氏
「規制は新しい利権である」
松浦氏
「単純所持という言い方が良くない、という考え方もある。新聞社などが持っている資料も、『単純所持』ということで警察に踏み込まれる理由になってしまう」
ダニエル氏
「しかし、持っている理由付けをどうするかで主観が入ってしまう。自分は以前から主張しているが、児童ポルノから主観を取り除くべきである」
松浦氏
「昔の出版物の扱い。『サンタフェ』の宮沢りえは撮影当時17歳と10ヶ月だった」
昼間氏
「児ポ法のことに興味のない出版界の人でも、『サンタフェ』がダメになるというと、話に載ってきてくれる」
永山氏
「単純所持の禁止は遡及法になってしまう。昔の雑誌、別にその手の雑誌でなくても、一般の雑誌にも少女の裸はよく載っていた。これの所持が禁止となると、国会図書館や大宅壮一文庫の蔵書も処分されかねない。文化史の研究ができなくなる」
ここで会場から「文章はどうか?」との声。「川端康成はエロい」「大江健三郎のノーベル賞はどうなるのか」「そもそも源氏の昔から」「日本の伝統」と話はてんでに盛り上がるが、結論は「今のところない」
ダニエル氏
「1466A規定は視覚のみを対象としている。同じことを絵にすると捕まって、文章にすると大丈夫。しかし、この規定による逮捕例は、実は一件しかない。
アメリカがやっていることは、自国で有名無実化していたソドミー法(テキサス州ではごく最近まで法自体は残っていた)を、日本に押しつけようとするようなもの」
昼間氏
「獣姦は禁止のところ、なぜか多いですよね」
永山氏
「えらく獣姦にこだわるのう」
○獣医ネタなど若干脇道に逸れるも、再び国会での話に。
昼間氏
「なぜこんなことを国会でやるのか」
松浦氏
「いまいち議論が盛り上がっていない。90年代には議論があったのに、なぜ今盛り上がらないのか考えると、この10年で議員がかなり入れ替わったというのもあるのかも。やり直しになってしまっている」
ダニエル氏
「『萌え』が流行った反動というのもあるのかも」
松浦氏
「ネット人口も増えた」
ダニエル氏
「日本のアニメや漫画、エロアニメやエロマンガは現在アメリカに大量に流入しているが、本格的に流入したのは1990年代末から。2000年代初めから、アメリカではウォルマートのような所でも日本のアニメや漫画を置くようになり、問題視されるようになった。そして一元的価値観により圧力がかかった」
松浦氏
「日本で議論の積み重ねがあれば、アメリカの圧力にも応えられるのに、一からやり直しとなっている。知識人の人たちの口も今回は重い。
永山氏
「確かに、もう何度も前に言ったから、今更言うことはない、という人はいる」
ダニエル氏
「まあ、この論争は4000年前のプラトンとアリストテレスの頃からやっているので(笑)。『ホメロス』は不道徳な内容だから書き換えるべきだ、という。
イギリスの『エコノミスト』誌に書かれていたことだが、新しいメディアが広まると、古い世代は必ずそれを嫌う。最古の例は文字。口伝で学ばなければダメだ、という主張があった」
松浦氏
「アメリカではこのような問題が起こったとき、知識人はどのような反応を示すのか」
ダニエル氏
「それは、もしかするとアメリカ大使館の連中が日本に圧力をかけにきた理由になるかも知れない。
彼らが日本でやったのと同じ話をアメリカですれば大ブーイングになる。1466A規定に疑問を持つ人は多い。法が人の倫理に介入することに反対する人は多いし、最高裁でも同じことを言ってる。
ニクソン大統領時代、ポルノ禁止のために検討の委員会を作ったら、法が倫理に介入すべきではないから逆にポルノは解禁すべきであるという結論の報告書が出来た。勿論ニクソンはすぐそれを破り捨てたが(笑)。
表現の自由については、児童ポルノやスナッフ・ビデオのような被害者のいるもの、国家機密のようなものについては制限されるが、陪審制なのでその議論に一般の人も入って活発に行われる。日本はその点、お上任せになりやすいのでは。アメリカでは表現の自由は市民が決める、という動きがあり、また業界もマメにロビイングしている。
今度の児童ポルノ禁止を推し進めているのはブッシュ政権。共和党は大企業寄りなので、ブッシュはゲームについては何も言わない。
今のゴンザレス司法長官が、『テロとの戦い』に加え『猥褻との戦い』も始めた。テロとの戦いも終わっていないのに、といろいろ不満も出たらしい」
昼間氏
「では今の日本はアメリカと戦争中なのか。大塚英志は正しいのか(笑)」
ダニエル氏
「アメリカの一部の人の倫理観を押しつけたがっている」
○だいぶ時間も経ったので、第1部のまとめに入ります。
昼間氏
「まとめとして、我々はこれから何をするべきなのか。抗議の焼身自殺をするわけにもいかない」
永山氏
「誰かバーベキューになる?」
昼間氏
「いや、熱いのは苦手(苦笑)」
永山氏
「普通はやはり投票行動か」
松浦氏
「ううん、近々選挙なさそうですし」
永山氏
「地元の議員に話を持って行くのがよいのか」
昼間氏
「状勢が流動的で、署名活動もいつやったら効果的なのか分からない」
永山氏
「分断統治的状況にある。個々の分野がバラバラで、全体を見て意見を集約しづらい」
ダニエル氏
「規制推進の人たちの主張の脆弱なところを削ることではないか。業界団体も弱いので、皆で取り組めば。AMIだけに任せないで(苦笑)」
昼間氏
「皆やり方が分からないのではないか」
ダニエル氏
「お茶会を毎月行っているので、いろいろ聞いてほしい。いろいろな人材が欲しい」
永山氏
「もう一つ自分が知恵が欲しいのは、論理的にはこの法案はおかしいのに、資料や情報を幾ら積み重ねても、最後のところで『でもやっぱりこういうのは規制しないとね』と結局感情論や一般論になってしまう。これをどのように説得するか、そのノウハウはないか」
松浦氏
「論理的に正しいことを言っても動かない。最新号の『論座』で、森達也氏と斎藤貴男氏が『暴走する「善意」とジャーナリズムの危機』と題して対談している。善意がまとまって動くことの問題。漠然とした不安、体感治安の『悪化』、少年法厳罰化などの流れに乗っている」
永山氏
「マスコミの責任も大きい」
松浦氏
「対談では教育を対策としていた」
昼間氏
「『論座』にはダニエル氏も来月出るのでは」
ダニエル氏
「AMIの取り組みが出る予定。しかしAMIで代表面はしたくない。
活動をしていても、ペドが見たいだろうと言われる。日本も酷いが外国はもっと酷い。カナダ人の記者から取材を受けたとき、ホモ小説を読む人がホモではない、というところから説明を始めなければならなかった。
大人のたしなみだということ。日本ではコミケで自分の妄想を売り買いするのが30年も続いている」
○この辺で第1部終了、休憩に
第2部は次の記事へ