「マンガ論争勃発番外編-表現の自由と覚悟を問う」レポ(3)
○第2部
第2部のパネラーは、第1部から引き続いての永山氏と松浦氏に、『ウェブ炎上』の著者として、というよりは「成城トランスカレッジ」の執筆者として著名な荻上チキ氏、そして映画監督の増田俊樹氏。司会は引き続き昼間氏です。このメンバーは、映画界の増田氏、放送界にいた松浦氏、ネットに詳しい荻上氏というコンセプトで、様々な業界の表現の状況について語ってもらおうという趣旨だそうです。
まず第2部からの登場となった荻上・増田両氏の至近の仕事について簡単な告知。荻上氏は学校裏サイトについての本を6月に出す予定、増田氏はこの日の翌日5月2日に「21世紀のデモはこれだ!! 近年行われてきた数々の秀逸なデモの映像を一挙上映!! 」というイベントをやる由、といっても今更無駄ですね(すみません監督)。
さて、第2部はいろいろ話題が出たり飛び入り参加者があったり、時にグダグダに逸れたりもしたので、第1部のように発言を逐次追いかけるのが難しい局面もありました。そのような所では適宜まとめて述べることにします。全体に、第1部よりだいぶ端折っていることをご諒解下さい。
○荻上氏、学校裏サイトを語る。
荻上氏
「まず前提から。子供ポルノのような問題と同時に、子供自身が猥褻画像を発信してしまう(セルフヌードなど)という問題がある。ネット規制の話の時には、学校裏サイトがそれを進める根拠になってしまっている。
学校裏サイトについては、下田博次『学校裏サイト』という本があるが、これがひどい本。この著者は『バーチャル社会のもたらす弊害からこどもを守る研究会』でも発言していて、学校裏サイトに関する文科省の調査もこの人がしている。
『子供』を巡っていろいろな動きがある。児ポ法や光市の事件の判決など。そういった流れの中で学校裏サイトについて考えた。
自分が高校生・大学生だった頃から学校裏サイト的なものはあったが、今はネットが元々のコンピュータに詳しい人たちから一般へと普及、これを自分は世俗化と呼んでいるが、世俗化の結果リテラシーが無くてもネットを使うようになり、親が自分で子供を啓蒙しきれるという自信がなくなって、規制を求めるようになっている」
松浦氏
「裏サイトが増えていて、4万もあると文科省では言っているが、その中には2ちゃんのスレまで含まれている。実態はどうなのか」
荻上氏
「4万というのは怪しい。というのも、文科省の調査ではSNSが入っていない。SNSで『学校勝手サイト』というのが多くあり、そこの裏になっているところが多い。
インタビューやアンケートで分かったことは、学校裏サイトでいじめられる人は、もともと実際の学校でいじめられている人。学校裏サイトは学校の延長なのだから当然。
これを専門家などが問題と言いだし、メディアが報じることによって広まる。こういうことはよくあること。断片的な情報が流れて、それが象徴的意味を帯び、政治的意味を帯びる」
※荻上氏は大変明快できちんとした説明をしてくれたのですが、あんまりきちんとしていて内容が濃かったもので、筆記がこれまた追いついておりません。詳細は氏のサイトや著書でご確認下さい。以降も同じ。
○ついで増田氏、映画を語る。
昼間氏
「ありがとうございました。今度は、強く規制されようとしているアニメやコミックに比べ、他のコンテンツがどうかという話を増田氏に聞きたい。スポンサーの圧力などどうなのか」
増田氏
「そんな話をしていいのか(笑)
自分は子供の頃、漫画家になりたかった。結局才能がないと気付いて、映像表現を仕事にしたが、他と同じような物は撮りたくない、そう思って幾つかの作品を作ってきた。
脚本を書いたりしていると、アイドルの誰某を使えなどといろいろ言われる。徹夜して脚本(ほん)を書いても直される。そんな時、漫画家になっていれば良かった、自分一人でできるのに。そう楽屋で永山さんに言ったら『バカ』と言われた」
永山氏
「全然それは違う。全部一人で出来るのは、職業でなく漫画を描いている場合。
職業としてやる場合、連載前に編集者と長々と打ち合わせをする。少年漫画誌で週刊連載ともなると1年くらい準備にかけ、その中で自分のやりたいことはどんどん削がれる。更に週刊連載だとアシスタントが4、5人いないと出来ない。いわば中小企業のトップ。プロの漫画家はむしろ映画監督に近い」
昼間氏
「映画のシステムを知らない人が多いと思うので、その辺から」
増田氏
「映画はお金がかかる。まず企画書を持って回ってお金を集める。脚本、キャスト、撮影場所の確保、やることはいろいろある。その中でやりたいことがどんどん出来なくなっていく。
自分のやった例では、これは昼間氏も一緒にやった仕事だが、まず事務所からあるアイドル3人を使えという指示があり、これにうまく制作会社がついた。自分はオウムとライブドアとを題材に映画を作りたかったが、制作会社がこういった話を嫌うので、無難な脚本を制作会社に出し、現場でどんどん変えていった。
そして完成して試写。制作会社のとっても立派な試写室に社長以下が集まって試写が始まった。ライブドア題材の話になると制作会社の人たちの顔色が変わる。社長が何か言っているが、人間本当に怒ると理路整然としない(笑)。社長が激怒しているところで何というタイミングか、昼間氏の携帯電話が鳴り出す。昼間氏、携帯電話を止めようと捜すが見つからず、自分で自分の体をかきむしるような奇態な踊りを踊った」
昼間氏
「バッグに入っていたんですよ」
増田氏
「昼間氏がやっとこさ携帯電話を止めたところでエンドロール。社長は当然切れたが、自分らには実は期待があった。こうなったからには、制作会社が介入しなければということで、編集のスタジオや機材を出してくれるのではないかと。案の定、社長はお前等には任せられん、ウチの編集をつけると叫んだので、自分と昼間氏は『ありがとうございます』と頭を下げた(笑)。
かくて確保された編集スタジオ、機材、スタッフがすごかった。月9のドラマとかやってるような所。そこでは『オウムをネタにした映画を作ったんだからバックに何がいるか分かるな』と豪語して存分に編集した。かくて公開したら初日に塩見高也が現れ、『いい映画だ』と演説して帰った。結局は入りも良かった」
※ここの話、実際に話している時はもっと面白く感じたのですが、メモの限界からあんまりうまく伝わっていなくて済みません。
○松浦氏、アナウンサー時代を語ります。
昼間氏
「自分も映画に関わって、映画に規制がかかることを知った。
今度は松浦氏に、アナウンサー時代の話を」
松浦氏
「秋田放送で午後6時からの番組のキャスターをやっていた。自分は子供の頃からアナウンサーになりたくて、大学は神戸だったが毎週新幹線で東京のアナウンサー学校に通ったりして、秋田放送でなることが出来た。しかしキャスターになったからといって好きなことは喋れない。――が、自分は喋ってた。
9.11以降、キー局(日本テレビ)から来るニュースが偏っていると感じるようになった。番組では秋田放送からキー局のニュースに切り替え、また秋田放送に戻ってくるのだが、その際に自分は『違う見方も出来るのでは・・・』と必ず付け加えるようにしていた。そうしたら番組を降ろされて、ラジオに回された。
今度は東京でロフトなどのイベントに行って、そこで出演者にわたりをつけてインタビューした。宮台真司、姜尚中、斎藤貴男などにインタビューして、それを編集して流したら、『右翼のような人』が局に文句をつけに来た。自分は会っていないので本当に右翼なのかはよく分からないが。
で、その番組も降ろされたが、完全に自分が電波から消えてしまうとかえって怪しまれるので、深夜番組に一応残された。これらはしかし、規制というものではなく、『空気』やクレーマー対策によるもの。
局の後輩に言われたことで印象的な言葉があって、『自分たちは会社に雇われているのだから会社に従うのが当然』というのだが、ジャーナリズムはそれでいいのか。しかし実際のところ、『ジャーナリスト志望』と面接で言うと絶対にマスコミは通らない。これはしかし規制ではない。森達也さんの『放送禁止歌』も同様」
昼間氏
「いろんな業界ごとに不文律があり、外から見ると変に見えることがある」
増田氏
「自分はテレビの仕事もしたが、テレビは時間との戦い。夜のニュースまでに間に合うか、中継車を出すか、そういったぎりぎりの判断でやっている。取材に行っても時間がないからただ辺りを写すだけで話も碌に聞けない」
松浦氏
「地方局はキー局に毎年一人研修に行く。これはキー局にとってはタダでADが確保でき、地方局にとってはキー局の制作手法を学ぶことが出来る。そこで学ぶことは、ジャーナリズムではないとはっきり言われる。ただ『ジャーナリストっぽい』ものを作ることを目標とする」
増田氏
「鳥越俊太郎みたいな格好をつけるのか(笑)」
昼間氏
「テレビでは変わってしまう。『フィギュア萌え族』の大谷昭宏氏も、『マンガ論争』の取材で会ったが、テレビと全然違う人だった」
永山氏
「いい人でしたなぁ」
昼間氏
「会ったら大阪のガラの悪い人。一人称が『おらぁよう』でいつも始まっている。取材した原稿をそのまんま『おらぁよう』で書いてこれでいいかと送ったら、全部直された。元は読売新聞の社会部で有名だった人。
ネットではどうなのか」
○再びネットの話に。
荻上氏
「ネットは今のところ自由。住み分けが行われている。しかしネットが世俗化すると、普通の生活の倫理が持ち込まれる。今は黎明期なのでグレーなものも許されているが、2ちゃんなどでは自主的な規制を模索する動きがある。これは大丈夫、これはダメと議論している。それが社会的なルールになっていけばよいのだが。
自分は規制を技術的なものと社会的なもの、自主的なものとそうでないもの(? 註:この辺うまくメモ取れず。マトリクスを作るのならレジュメを配るか板書するかパワーポイント使うか、何かして欲しかったのが正直なところ)とに分けている。このマトリクス上に様々な規制を分析している。
現状、自主的な規制は『半年ROMれ』『ググレカス』だが、これは初心者に厳しい。アイドルのブログが炎上するのは、何も知らない人に好き勝手に書かせているから当たり前といえば当たり前。しかしそういうことが重なると、ネットなんか規制してしまえということになる。
MIAU、サイバースペース独立宣言というのは、今まで積み重ねられてきたロジックによる。これは既存のコンテンツ産業へのカウンターとして出てきた。だから既存メディアがネットに乗りだしてくると、それの排除を求めるのは当たり前」
○ここらへんで、映画の話題が一旦入りましたが、メモの不備で曖昧で済みません。
確か、世代的な話から増田氏が「自分らの頃は『映画を見る』と言えば映画館で見ることだったが、最近の若い人にとってはDVDで見ることらしい」と発言し、昼間氏だったか会場からの声だったのか、「映画監督としては映画は映画館で見て欲しいものなのか」という問いが。
増田氏
「それは愚問。自分が撮った映画は映画館で見て欲しい。他の奴が撮った映画はDVDで(笑)。でもこれは映画撮っている者全員が思っていることだろう。
しかし、映画というのは映画館で見るもの、その一回限りの魂の触れ合いこそが、みたいな話はよくあったものだが」
荻上氏
「アウラはネットで youtube やニコニコ動画を見ている人には通じない」
○再び荻上氏のターン。
荻上氏
「自分の師匠である北田暁大氏が最近ネットに書いた、『「メディアを疑うこと」を疑うこと』が、ネットで叩かれ気味に知られている。
メディアリテラシーを万人に与えることは出来ないが、仮に出来たとしてもうまくいくわけではない。単に事実を並べてリテラシーを育ててもダメ。
結局声を上げて説得、ロビイングするしかない。ブログで議論をしてもあまり意味はないが、ガイドライン、情報の共有の意味はある。ただしそれ以前に『これはひどい』とタグをつけられて炎上してしまうこともある。ネットについては一時期ずいぶんと夢が語られたが、ネット世代はもう日常になっているので、ネットに対しても結局は人間がやることなのだと醒めている。ネットに対しては過大な期待をしない方が良い」
昼間氏
「運動論の話が出たが、結局は昔と変わっていないのか」
荻上氏
「そう。
ネット規制に対しては、攻撃する側の方が有利」
松浦氏
「それは確かで、攻撃側が有利。いくら情報を積み重ねて説明しても、規制側がエロプロフを一つ持ってきて『こんなひどいのがあるんです!!』と見せた瞬間勝ち」
荻上氏
「プロフについて言えば、最近写真を載せるのは減っている。もともとプロフの写真はプリクラ文化を引き継いだもの。渋谷とかでエロプリクラを撮って張って連絡を取る、というのがあったが、それと同じこと。ネットではそれが世界中に広がってしまうと言うが、実際にそこまでたどり着ける人はどれだけいるのか。規制推進派の人たちはそういうものを探せるのか。結局はプリクラを張るのと変わらないのではないか。
下田博次『学校裏サイト』は今現在この問題についての最も一般的な本とされているが、問題の多い本で、自分は問題点を指摘しようと思ってポストイットを貼っていったら本の厚さが二倍になった。この本は最初の40ページ、題名に反して学校裏サイトの話がない。出会い系とアダルトサイトの話ばかり。おまけに、画像が本の中に張られているのでよく見てみると、カウンタの『本日の来訪者』が50人だったりする(笑)。ネットを分かっていない。
結局、ネットの影響は大したことがない」
増田氏
「『クローバーフィールド』はだから、逆にネットに何も発表しないという宣伝方法で成功を収めた。実際の内容は、まあ(笑)」
○長すぎて記事がアップできなくなったので、ここで切って続きは(4)に。