アメリカの鉄道のニュース・CSX vs TCI
で、『COMICリュウ』関係の話の続きはおいおい書いていきたいですし、来月の新刊についてナヲコ先生からもアナウンスがあったりしたのですが、それはまた書くとして、今日は鉄道に関するニュースを。
数日前の日経新聞で読んだ(新聞本体が見当たらない・・・)ニュース。
英TCI、米鉄道とも対立 増配要求、Jパワーと似た構図これは21日付のニュースです。
日本のJパワー(電源開発)に増配などを迫る英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)が、米上場企業とも対決姿勢を強めている。米貨物鉄道大手CSX(フロリダ州)に資産の有効活用や増配を求め、TCIが推薦する取締役の選任を迫った。米議会では安全保障上の理由から外資の経営支配に異議を唱える声が上がるなど、投資ファンドへの対応は世界の企業、政府の共通の課題になっている。
TCIはCSX株式の4.4%を保有する第3位の大株主で、歩調を合わせる第4位株主の米系ファンドと合わせた株式保有率は8.5%を超える。CSXが抱える遊休資産の有効活用や自社株買いや増配などの株主還元策を要求。CSXが25日に開く株主総会に向け、12人の取締役のうち5人をTCIが推薦する取締役を選ぶよう提案、委任状争奪戦に発展している。
電発の株を買って政府から苦情の入ったTCIが、アメリカの同じくインフラ系企業である鉄道企業のCSXの株を買って「株主還元」を求めているという話です。「CSX(フロリダ州)」とありますが、CSXはアメリカのミシシッピ以東22州(+コロンビア特別区とカナダの2州)に約23000マイルの路線網を持つ巨大鉄道会社で、本社がフロリダのジャクソンヴィルにあります。
で、この委任状争奪戦は訴訟に発展しています。ロイターの記事から。
TCIと3Gが米CSX株取得過程で証券法に抵触、株主投票は続行許可=連邦判事これは12日の記事です。このCSXによる訴えは3月17日に起こされ、その月末には対抗してファンド側が対抗して訴えを起こしていました。
米ニューヨーク南部地区のカプラン連邦地裁判事は11日、鉄道会社CSXをめぐり会社側と委任状争奪戦を繰り広げている投資ファンド2社に対し、CSX株を大量取得する過程で証券法に違反したことを認めた。ただ、2週間後に開かれる年次株主総会での投票は認める判断を下した。
判事は、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド・マネージメント(TCI)と3Gキャピタル・パートナーズが「1年以上にわたり、CSXの支配権を争う」中で、故意に情報開示義務を怠ったと指摘。「支配権を得るための障害が表面化したため、彼らの戦略に都合の良い時のみに情報を開示することで支配権を得ようとする戦略を取った」と付け加えた。
判事はまた、2社がスワップポジションの中に集積された株式受益所有権に関する情報開示の回避を計画し、投資家連合を形成したことを迅速に明らかにしなかったと判断した。
ただ判事は、裁判所にはTCIと3GをCSXの株主投票から排除することはできないとも述べ、違反に対する罰則は証券取引委員会(SEC)もしくは司法省が決定すべきとの考えを示した。
これに対してTCIと3Gは声明を発表し、「6月25日の取締役選任の結果について株主が決められるようになったことを喜んでいる。われわれはすべての証券法を順守していると確信しており、控訴を計画している」と述べた。
CSXの株主は、2社がグループとして行動した半年間については、十全な情報を得ていたと信じていると表明した。
カプラン判事はまた、CSXに対する2社の反訴を棄却した。
一方CSXは、「CSXに有利な判決」と題する文書を発表、「裁判所は、現行法ではTCIと3Gに保有株の投票を禁じる判決を下せないとの結論に達した。しかしながら、裁判所がそうした救済措置を自由に下せる立場であれば、裁量権を行使しただろう」と総括した。
CSXは3月、TCIと3Gが6月25日の株主総会で5人の取締役候補を議案にかけることを禁じるよう求め、2社を相手取った訴えを起こした。CSXは、2社がCSXの保有株について適切な開示を行わず、投資家グループが秘密裏に協力しあうことを禁じている連邦証券法に違反していると主張していた。
告訴理由について、TCIは、CSX側に5人の執行役員ポストを要求したのに対し、これを阻止するため、現在のマイケル・ワードCEO(最高経営責任者)を含む主な執行役員に、株価が上昇する前にストックオプションを付与したのは証券業法違反の疑いがあるとしている。で、この件についてアメリカの証券取引委員会(SEC)は、このような見解を示していたそうです。
また、訴状によると、CSXは昨年5月、執行役員に対し、10億ドル(約1000億円)の自社株買取枠の拡大や増配、業績見通しの改善を公表する1週間前に、ストックオプションを与えたとし、これは、CSXのインサイダー取引に関する社内規則や倫理規定に対する重大違反としている。
米SEC、ヘッジファンドの英TCIに対する鉄道会社CSX側の告訴に疑問を呈す以上二つは、「ヘッジファンドクルーク」というサイトの記事の、Googleキャッシュから引用しました。上が4月7日、下が6月6日の記事です。
ダウ・ジョーンズは5日付の記事の中で、米SECが米鉄道会社CSXの経営改革を求めて株主委任状争奪戦を展開している英TCIに有利となる判断を示した、と報じている。
英国のアクティビスト・ヘッジファンド、ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)は、CSXの経営方針をめぐって対立、6月25日の株主総会で、同社の役員12人のうち、5人の入れ替えを目指して、株主委任状争奪戦を展開している。
これに対し、CSXは訴訟で対抗、ニューヨークの米連邦地裁に、TCIは有価証券の情報開示規定に違反しているとして提訴している。
TCIはパートナーの3Gキャピタル・パートナーズと合わせてCSXの株式を8.3%保有しているが、CSX側は、TCIはそのほかに投資銀行とのエクイティスワップ取引を通じて12%のCSX株を取得、議決権を高めていると主張。その上で、CSX側は、これは5%以上の株式保有に適用される情報開示ルール違反としている。
裁判の焦点は、エクイティスワップ取引を通じた株式保有が情報開示違反にあたるのかどうか、また、CSX側が主張するように、エクイティスワップ取引で投資銀行が保有しているCSX株の実質株主はTCIなのかどうかとなっている。
この点について、SECのブライアン・ブレへニー企業ファイナンス局次長は、同地裁のルイス・カプラン判事に宛てた4日付の書簡の中で、CSX側の主張を退ける判断を示した。具体的にはSECは、エクイティスワップ取引でCSX株を保有している投資銀行がそれらの株式の実質株主であり、TCIではないとしている。
また、CSX側は、TCIと投資銀行の緊密なビジネス上の利害関係から、TCIは意のままに投資銀行に議決権を行使させることが可能であることから、投資銀行がスワップ取引で保有しているCSX株の実質株主はTCIだと主張した。
しかし、SECはそうした利害関係があっても、それによって、TCIが実質株主であり議決権を持つという要件にはならないとした。また、SECは、エクイティスワップ取引をしたTCIは情報開示違反にあたらないとの判断も示した。
CSXの訴え(ファンドの情報開示に問題があった)は認められたものの、ファンド側の株主総会での投票は「排除できない」ことになり、情報開示違反の「違反に対する罰則は証券取引委員会(SEC)もしくは司法省が決定すべき」となりました。しかしそのSECの見解はファンド有利のようです。
そして、その株主投票が25日にあったのですが、それがどうなったかといいますと、再びロイターの記事に拠れば、
米CSXの株主投票、ファンド推薦の取締役4人を選任=TCIと3Gというわけで、ファンド側が有利な結果を収めたようです。
米鉄道会社CSXとの対決姿勢を強めているアクティビスト(行動する)ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド・マネージメント(TCI)と3Gキャピタル・パートナーズは25日、同日開催された年次株主総会の暫定投票結果によると、両ファンドが推薦した取締役候補5人のうち4人が株主によって選任されたと発表した。
TCIの創業パートナーの一人であるスナール・アミン氏は記者団に「すべての株主にとっての勝利だ」と語った。
CSXの取締役会は12人で構成されている。
一方、CSXのマイケル・ワード最高経営責任者(CEO)は記者団に、株主投票の結果が検証されるまで、TCIと3Gが取締役会で席を得られたかどうかは確かめようがないと述べた。会社発表の声明は投票結果について「接戦で予測がつかない」としている。
またCSXによると、投票結果は現地時間7月25日午前10時にフロリダ州の本社で発表される。
ロンドンに本拠を置くTCIと3Gは半年間にわたってCSXと委任状争奪戦を繰り広げ、CSXの経営と収益性の改善につながるとして推薦する取締役の選任を株主に訴えてきた。
両ファンドはCSXの議決権株式を計20%保有している。
しかし、鉄道側もまだまだ抵抗するつもりのようです。これは日経のニュースから。
米鉄道大手CSX、株主総会で英ファンドと対決
英ヘッジファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)が資産活用などを巡って圧力を加えている米鉄道会社大手CSX(フロリダ州)が25日、年次株主総会を開いた。取締役選任で会社側が推薦する候補とTCIが推す候補の得票率がきん差となったため、投票結果を再集計する。
CSXは第三者機関を通じて投票結果を再集計し、7月25日に発表する。TCIは現在CSX株式の4.4%を保有する第3位の大株主。同じく4%超を保有する米ヘッジファンドとともに昨年来、自社株買いや増配、遊休資産の有効活用を求めてきたが、CSXが拒否。12人いる取締役に、自社が推薦する候補者5人を送りこもうと株主提案し、委任状争奪合戦となっていた。
さて、こういったことを評するのに、小生は現今のファンドを巡る情勢に詳しいわけでもなく、古今の鉄道について多少の知識を持ってはいても、アメリカの鉄道については近年になって少しばかり読んだ程度なので、到底適切とはいえません。出来れば「鉄路的部落」さんのような適任の方に評していただきたいところですが、どうも最近こちらの更新もないようなので、非才を省みず思ったことを一筆。
滅茶苦茶大雑把に言えば、19世紀において鉄道企業とその経営・投資は「やりたい放題」で、この場合「泥棒貴族」と呼ばれた投資家が、一般株主や沿線住民の利益を無視して金儲けに奔走し、そのためには悪辣な株式操作でアメリカの株式市場を恐慌に突き落としたり、議会をどっぷり賄賂漬けにしたということがありました。その手の連中の話は、以前このブログでも少し書きましたね。
それへの反省から、19世紀末には州際商業委員会が設けられて鉄道への規制が行われ、また戦争中には鉄道の国家管理も行われました。
ところがその後自動車や航空機が発達し、輸送における鉄道の独占が崩れると、今度は19世紀以来の規制(鉄道の陸上交通独占を前提としている)が枷となり、鉄道会社は経営に苦しみます。1970年には北東部の最有力鉄道だったペン・セントラル鉄道(かつてのペンシルヴァニア鉄道とニューヨーク・セントラル鉄道の合併会社)が破綻し、1976年に北東部の鉄道は国家管理のコンレイルになったのでした。この間、儲からない旅客鉄道が分離されて、これも国営のアムトラックができてますな。
で、その後規制緩和が行われ、そしてアメリカの有力鉄道は1980年代以降大合併を繰り返し、現在はCSX含め5社(とカナダの2社およびその子会社)に統合されました。大規模な統合と路線の合理化(廃止)は混乱ももたらしましたが、アメリカ経済の好調もあって概ね現在の経営状態は良好のようです。まあ、だからファンドに狙われたのでしょうが。
自由放任の弊害が認識されたり、逆に規制の問題が重要視されたり、時代によって社会の向く方向は様々に変わってきたわけです。
今は規制緩和方向に流れていることは明らかですが、さてこの方向がこのまま続くのか、どこかで止まって逆方向に動き出すのか、潮目はどうなっているのでしょうか。
小生一個の思いとしては、ファンドの行動は支持できません。巨大な資本を必要とし、長期の視点が必要な、公共性の高いこのような企業の経営においては、短期的な配当増加というものは最優先されるものではない、そう考えます。設備に対する十分な投資を行い、顧客へのサービスを向上させることは、特に鉄道という土着性が強くよそへ逃げ出せない企業の場合、重要となります。そしてそれは、長期的には株主の利益にも適うものです。
また、規制緩和による経営の合理化と、ファンドの行動の規制とは、決して相反するものではないはずだと考えます。
TCIは、利益の一部をアフリカやインドでの子供の教育に寄付しており、だから「The Children's Investment Fund」なのだそうです。
ところで、これも小生以前書いたような気がしますが、教育の効果というものは短期的に計れるものではない、極論すれば教育された側が死んで初めて評価できるようなものではないか、そう思います。少なくとも、子供を育てるのに、次の期末試験や中間試験での早急な成果をすぐ挙げるようにしりを叩き続けるという教育方法は、おそらくは一般的に言って、決して賢明なやり方ではないだろうと思います。
で、世に様々な事業がありますが、鉄道業のような(そして電力業も)インフラ事業というものは、莫大な投資をして長期に回収し、その影響が多方面に渡るような、そんな事業です。子供に教育をするのと同じくらい、或いはそれ以上の(インフラは子孫の代まで影響を及ぼします)長期的な視野が求められるのではないでしょうか。
まあ、確かにインフラ事業の「長期的視野」の当てが外れた実例は枚挙に暇が無いですけど。またこの論理で公営化したインフラ事業は、必ずしも良い成果を挙げたばかりではありませんね。これに対しては、規制緩和だの民営化だのということが良い効果を齎すことがあるでしょうし、日本の国鉄改革は概ねうまく行ったと思います。
とはいえ、繰り返しますが、経営における合理性と投資ファンドの行動の制約は、決して配置するものではないと考えます。むしろ「長い目では」両者は一致するはずです。
というわけで、この問題については、日本とも関係があることですし、続報や識者のご意見を待ちたいと思います。
以上のまじめな感想とは別に、「JR某海もリニアなんか作るカネがあるなら、CSXにホワイトナイト面して出て行って、経営の主導権を握った暁にはボストン~NY~フィラデルフィア~ボルティモア~ワシントンD.C.と新幹線を・・・」と一瞬妄想してしまいました。
『1830』にはまりすぎかもしれません。何せ「泥棒貴族」のゲームと箱に書いてあるくらいで。
※追記:結局なんだかんだで和解したようです。
どのような産業も、投資に対するリターンという形で利潤を上げますが、配当を増やしすぎると配当に食われ、投資が難しくなることは戦前期日本が証明している感がします。
ご指摘の通り、戦前の日本は「タコ配上等」の世界でしたね。資本がキツキツだったあの時代ではある程度正当化できるかとも思いますが、逆にカネ余りで社会資本のストックもある現在ではどうなのでしょうね。
>某後輩氏
復活されたようで何よりです。
カリフォルニア州も規模的には新幹線向きですね。
中西部は、オハイオからインディアナ、イリノイあたりは、1920年代にはインターアーバン(都市間連絡電車)が全米一の密度を誇ってたんですけどねえ・・・インターアーバンの正嫡が新幹線だと思うんですが、やはり今は無理か。
>ラーゲリ氏
久し振りのコメントありがとうございます。
ところでボーイングの本社、何時の間にかシカゴに引っ越してたんですね。知りませんでした。
かつてシカゴ・ミルウォーキー・セントポール&パシフィック鉄道は、ワシントン州まで長大な電化区間を有する大陸横断鉄道を建設し、当時世界最大の電気機関車を走らせたものでしたが、哀れ破産・・・やはり遠すぎるようで。
つまり持ち合いサイコウw
http://en.wikipedia.org/wiki/Midwest_Regional_Rail_Initiative
http://www.dot.state.mn.us/passengerrail/onepagers/midwest.html
またこれを補完するものとして、オハイオ州ではクリーブランドをハブとした高速旅客鉄道計画があります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ohio_Hub
http://www.dot.state.oh.us/ohiorail/Ohio%20Hub/Website/ordc/index.html
特に3C回廊(Cleveland-Columbus-Cincinnati)は定員300人の特急を110mphで1日8往復させる(現代アメリカにしては)野心的な計画で、Ohio Hub計画の中で最も優先度が高いとされています。
個人的に興味深かったのは貨物各社の持つ線路設備を近代化させてそれを間借りする形で新規の旅客列車を走らせる方式で、日本のJR貨物が旅客各社の線路の上を走らせてもらっているのと正反対になっていますね。
小林一三も言ってましたね。将来は阪急の株を沿線のお客さんに持ってもらって、電車はその人たちのためにタダで動かすくらいにしないと、とかなんとか。タダは極論にしてもこういった会社の場合は一考の余地があります。
さすが元西宮住民のコメントと感心。
>某後輩氏
リンク紹介ありがとうございます。最近アメリカの鉄道の本を読んだので、リンク先のマップの線路の旧社名が大体わかるようになりました(笑)
アメリカでも鉄道の見直しが進んでいるようで、興味深いです。もっとも都市交通と比べると、都市間の高速鉄道はまだまだ成果を挙げていない気もしますが、かつてのインターアーバン王国の一端なりとも復活すれば面白いですね。
日本の鉄道は、明治の開業以来ほぼ一貫して旅客輸送の方が貨物輸送より多かった(国鉄で貨物が多かったのは戦時中の一時期だけ)のが特徴でした。ので、圧倒的貨物優位のアメリカの鉄道(戦前の最盛期でさえ、利益は貨物から上げていて旅客は儲かっていなかったという説あり)とは元々対照的な構造なのです。
技術とか経営手法とかでは、日本の鉄道はアメリカの影響が大きいんですけどね。