JR東海が日本車両の株式公開買い付け、子会社化へ
さて、今日も今日とて新聞を開きましたところ、表題のごときニュースが。
プレスリリースは以下のリンク参照。
JR東海、日本車両と資本業務提携し株式公開買い付けを開始
新聞報道については、ネット上で見つけたところでは、地元のためか中日新聞が詳しいようです。
JR東海が日本車両を子会社化 友好的TOB、リニア開発体制固め
夢実現へ“投資”262億円 JR東海の日本車両子会社化
後者の記事はかなり詳しいものです。以下に一部抜粋。
JR東海が15日発表した日本車両製造の子会社化は、2025年の営業開始を目指す“夢の超特急”リニア中央新幹線の実現に向けた布石といえる。民営化後、東海道新幹線を軸に鉄道事業者として安定した基盤を築いた上で、鉄道車両の製造まで手を広げ、従来の鉄道の概念から外れた技術の固まり「リニア」の実用化を加速させる。 (有川正俊)御興味を持たれた方は是非元の記事をお読みください。
(中略)
今回の子会社化は、JR東海が資金力を発揮し、リニア中央新幹線の開発から製造、保守までを自社が担う意思を明確に打ち出した投資となる。松本正之社長が「車両開発を本格的に推進するための技術力強化」と強調するように、JR東海が単独で負担する超電導リニアの事業費5兆1000億円の一部ともとらえられる。
(中略)
技術的には確立されたリニアとはいえ、実用化をにらんだ車両開発には長期間を要するのは必至で、子会社化した日本車両はその核となる。
日本車両はJR東海が昨夏から運用を始めた新型新幹線車両「N700系」の開発パートナーで、高い技術力を誇る。「110年の歴史を持つ国内有数メーカー」(松本社長)で、JR側の信頼もゆるぎない。
JR東海は以前から、社長を日本車両に送り込むなど経営面でも関係は深いが、子会社化を機に、技術本部長をトップに両社でプロジェクトチームも発足させる。リニア実現に向け、リニア事業体としての企業像づくりを進めることになる。
◆日本車両、JR傘下で生き残り
「われわれ車両メーカーは設計と製造だけだが、提携により開発や保守でも交流ができるようになる」。15日の会見後、日本車両製造の生島勝之社長は、提携のメリットに相乗効果を挙げた。ただ、JR東海の子会社となる背景には、リニアプロジェクトで重要な要素となる車両の製造などで、必要な資金調達を円滑に進めるといった経営面での戦略もみてとれる。
同社の2008年3月期連結決算は経常損失が18億円、純損失は54億円に上り、経常損益は37年ぶりの赤字化だった。
JR東海、西日本の新型新幹線車両「N700系」を一挙に3年分受注したため、部品や製造施設などの初期費用がかさんだことが原因だった。
日本車両は私鉄や国外電鉄の車両製造も手掛けるが、JRへの依存度が高い。
このため、JRの大きなプロジェクトに参画すれば会社を挙げての事業となり費用も膨らむ。
JR東海の松本正之社長は「(赤字となった)業績は一時的なもの。今回の提携とは直接かかわりはない」と述べ、提携と日本車両の“救済”とのかかわりを否定。だが、日本車両を子会社化する理由について明確な答えはなかった。
JR東海が、リニア事業を車両製造まで含め完全に“手綱”を握って進める意向なのは確か。日本車両としては独立色を薄めてもJR東海傘下で事業への参画度を深め、必要な巨額投資でも調達を有利に進める狙いがあるとみられる。(細井卓也)
(後略)
さて、小生は戦前の鉄道のことばかり最近は調べているので、現在の世界の鉄道情勢にあまり明るくはないのですが、大雑把なイメージでは、世界の鉄道車両メーカーは合併して数を減らして大規模化しているようです。この傾向は鉄道車両製造に限ったことじゃないでしょうが。その中で日本の鉄道車両製造会社は(比較的)小規模で数が多い印象があります。その競い合いが技術の進歩を促進してきた面は勿論ありますが、鉄道技術が成熟した現在では、むしろ欧米の大会社に対して国際競争に不利な面があるようにも思われました。
最近のJR東日本と関東私鉄各社における標準型車両の導入は、そういった分立傾向を統合に変える意味もあると思われ、まあ各私鉄ごとの車両の個性が減るのは趣味者的には寂しいですが、成熟産業である鉄道の向かうべき方向として、妥当なところと考えられました。
で、そんな中で、いわば「垂直統合」を図るJR東海の戦略や如何に。上掲新聞記事の「日本車両を子会社化する理由について明確な答えはなかった」という一節が気になります。
JRが自社の車両製造能力を強化する、という点ではJR東日本の新津工場と形の上では似ているともいえますが、やはり「リニア」という新システムを目指すという点でかなり違っているでしょう。
日経新聞の記事では、この子会社化を新幹線技術を輸出する構想の布石であると、葛西敬之会長の「リニア新幹線の技術は未来へ無限の可能性を持っている」という言葉を紹介して記していましたが、果たして?
鉄道車両を国際的に売り込む、という点では未だ海のものとも山のものともつかないリニアが支持を得るには、かなりの時間が必要でしょう(上海のリニア、あまりいい評判を聞きません)。「技術的には確立されたリニア」と中日新聞の記事にありますが、システム全体として確立されたのかは疑問が残ります。リニアが実現すれば、JR東海とその配下の日本車両が技術を独占してウマー、という目論見のようですが、既存の鉄道システムと全く別個のリニアを、現在の高速鉄道システム(多くの国では在来線直通が可能)よりも好んで導入しようとする国や地域は、どれほどあるのでしょうか。
日本車両の株のうちJR東海が取得するのは過半数の50.1%で、日車の株式上場は維持されるとのこと。これは私鉄などへの納入を続けやすくする意図があるそうです。日車側も、リニアと運命共にするまでのつもりはやはりないでしょうし。でも、日車の上得意にしてJR東海に上がりをだいぶ持っていかれた名鉄、どうすんだろ。
今後の展開には、気長に注意を払っていきましょう。葛西会長退陣後どうなるか、名古屋財界を支えるトヨタの繁栄も磐石ではなく(GMを販売台数で凌いだのも、GMがトヨタより派手にへこんだだけの話ですし)、2025年まで先は長いですし。