次号の発売日も迫る『月刊COMICリュウ』1月号雑感
・ナヲコ「なずなのねいろ」
素晴らしいものを素晴らしいと受け止めることは、実はとても難しい。そんなお話。・・・長かった回想篇も、シームレスに(?)現在へと繋がってきました。眞さんの前でおめかしして「エヘッ」と照れるなずなの表情がとても可愛いです。しかし、単に「可愛い」の一言では済まされない微妙な何かを、なずなと眞さんの間に感じてもしまうのは、小生が前世紀以来のナヲコ先生の読者だから(コアマガジンの単行本を読んでいるから)、というだけではないはずです。
このところページ数が少なくて寂しいのですが、次回はお休みらしいです。年末年始の楽しみが一つ減りました。
・速水螺旋人「螺子の囁き」
今回のお題はイギリス海軍の戦列艦ヴィクトリー。・・・んー、これは木造でメカかどうか疑問だし螺子なんか使ってるのかと(備品や艤装品を含めれば使ってるでしょう)思う人も結構いたのではないかと推測しますが、しかし何より、こんなに有名な教科書に載っているようなものが登場とは、ネタ切れでないかと心配になってしまいます。速水先生に限ってそんなことはないと思いますが。
ちなみに、今回のコラムで速水先生オススメの映画『マスター&コマンダー』、小生も以前評判を聞いてDVDを買いましたが・・・爾来数年、未だにシュリンクすら剥がしておりません。
・小石川ふに「ゆるユルにゃ-!!」
タイトルページで津軽三味線をかかえたなずな、そしてその後方でおびえるヨークたちネコ娘。・・・大丈夫、津軽三味線の材料は犬の皮だそうで(?)。小石川先生がこんなことをするに至った経緯はナヲコ先生のサイト参照。
本題の方は、ヨークが双子ネコをお供に旅に出て一転、と思いきやなにも変わってないような(笑)。チキンラーメンを生のまま齧るのが好きな小生としては、ひたすら「ぽりぽりぽりぽりぽり(以下数十回続く)」と「チキンにゃーメン」を齧っているところは、微笑まずにはいられません。
・大野ツトム「ネム×ダン」
これまでもなかなか面白いと思ってきた本作ですが、今回は特に冴えていた感が。途中で止まることなく、最後まで笑いっぱなしのような読後感でした。続きが楽しみだなあ、と思ったら、大野ツトム氏は次号から光瀬龍原作・押井守脚色「夕ばえ作戦」を連載するそうで(宣伝に5ページも使う力の入れよう、なのか単にページが余ったのか)、「ネム×ダン」はしばらくお休みのようで。
いよいよ編集長の趣味?全開のSF漫画雑誌になりつつある感じもして、それはそれで一向構わないのですが、『リュウ』ではオリジナル作品で結構面白い漫画を描いていた漫画家さんが、原作つきになった途端に大暴投をやらかした先例もあるので――どなたの作品かは申しませんが――なんだかちょっと心配な気もしてくるのでした。
・神楽坂淳/伊藤伸平「大正野球娘。」
繰り返しますが、どなたの作品かは申しません。ええ。
で、おそらくは本来の漫画の鑑賞方法とは多分ずれた視点から、(一部)読者をハラハラドキドキさせているであろう本作ですが、今回は人見知りの女の子が心を開く様子を描いていて、一読安心。
さらに間違った鑑賞法ですが、本作中に登場していた路面電車は屋根がシングルルーフなのがいただけない。大正時代ならやはり二重屋根でないと。1107と車番が描いてありますが、この番号の東京市電の電車は実在して、旧東京電車鉄道251形→東京鉄道1101形として20両作られたそうです。このグループは、大正10年に車庫の火事で3両が失われ、そして震災で残った車輌もほぼ全滅しましたが、たった1両生き残ったのが1107号だったそうな。
で、大正14年に番号改正があって、別な車輌がこの番号を・・・え、もういいですか?
・大塚英志/ひらりん「三つ目の夢二」
夢二はどこまでもダメ人間。
それにしても、このご時世扱いの難しそうな題材を果敢に取り込むとは、原作者・大塚英志ならではと言うべきか、『リュウ』の読者は"大人"なのか。
・西川魯介「ヴンダーカンマー」
シリアス路線かと思ったら、一転、何の脈絡もなく一同はアフリカ戦線に出張して、砂漠の発掘を。なんだか『インディー・ジョーンズ』みたいですな。
やられ役雑魚キャラ扱いのマチルダ嬢哀れ。
・アサミ・マート「木造迷宮」
サエコさんの病気見舞いに女中のヤイさんが・・・というお話。こういうキャラクターのお話を、「ツンデレ」なんてありきたりの言葉で括ってしまうのは、何とももったいないことです。
・たまきひさお「トランス・ヴィーナス」
突然ニューヨークに飛ばされた主人公タケヒロ君・・・と、早速金融恐慌ネタとは仕事がお早い。しかし株式取引所周辺は、妖怪や幽霊ぐらい幾らいてもおかしくないような空間ですので、実はそれほど笑うべきネタでもないのかも知れません。
・とり・みき&唐沢なをき「とりから往復書簡」
『リュウ』の2周年パーティーでのくじ引きばなし。ここでナヲコ先生と小石川ふに先生が出会って上述のようなことになったわけですが、それはそれとして、何でもメイドさんがパーティーのアシスタントだったそうな。
で、とり・唐沢両氏のメイドさんの絵など見比べていたりしたのですが、左に引用した唐沢氏描くコマの、左側のメイドさんがドロワーズなんだか「はいてない」んだかパッと見は微妙な感じ(笑)。よく見るとドロワーズだと分かりますが。
・平尾アウリ「まんがの作り方」
中学生で漫画家デビューした川口さん、なぜ一度は引退したかというと・・・
ネットって怖いですね。「数年前の私はそうして終わったのさ」と言い切ってる時の川口さんの表情がいいです。
・天蓬元帥「ちょいあ!」
先々号の感想で、「岡山といえばママカリもいいですが、大手饅頭は外せない」と書いたら、今月号で本当に大手饅頭が登場してびっくり。これが荷物の底になって平たく潰れたり、カビが生えたのを蒸し直して食べたりという展開になったら、単行本買います。
・安堂維子里「Fusion」
この作者の方は、これまで『リュウ』に何度か読み切りを書かれていたかと思いますが、これまで感想で取り上げたことがなかったですね。さらりと読めてしまって反って強く印象に残らなかったようなところがありましたが、本作は取り分けよかったと思います。
もっとも、途中まで読んでいて、銀茄子氏の「生殖の礎」(リンク先は一応成年向けなのでその旨ご注意下さい)を思い出して、もっと違った結末を勝手に予測してしまっただけ、印象が強くなったのかも知れませんが。
・京極夏彦/樋口彰彦「ルー=ガルー」
先月書いたように単行本を購入。今月号でお話がいよいよ核心に入り、連続殺人事件と死体からの臓器持ち去りの意味が示唆されます。一方終わりが近づいてきたような寂しさも・・・。
このタイミングで単行本を読んでおいてちょうど良かったですね。ストーリーも絵もいいだけに、取っつきにくさで知名度が上がらない作品なのかな、とも思います。設定が入り組んでいるだけに、単行本で読んだ方が楽しみやすい作品なのかも知れません。というわけで、小生の好みで「いつも夢いっぱい」の都築さんが表紙の2巻を挙げておきました。単行本の感想は・・・書くのが大変なので将来目標ということで。大体ナヲコ先生の『からだのきもち』『なずなのねいろ(1)』の感想すらまだ書いていないので・・・
・吾妻ひでお/中塚圭骸「吾妻ひでおの失踪入門」
ブラコンとして著名な精神科医・香山リカ氏の弟で、ハルシオン依存の歯科医・中塚圭骸氏が吾妻ひでお先生と対談的な何かを繰り広げるコーナーですが、吾妻師匠の偉大さ故か中塚氏が順調に社会復帰し、娘さんも生まれたという話が数号前に出ておりました。
その中塚氏、今号で曰くは「子どもができた」とお姉さんに電話を入れたら「ブチッと切られた」。どうも香山氏のブラコンとは、「僕(註:中塚氏)を自分(註:香山氏)のもうひとつの人格と捉えて、破滅願望の安全弁にしていたみたいなの」だそうです。それが子どもができるということで、依存対象に出来なくなったのかな。
てなわけで、中塚氏はお姉さんに、今後は<若貴の関係>だと言われてしまいます。
――若貴(笑)。吾妻先生、グランドキャニオンは実は結構緑が多いです――って突っ込むのはそこじゃないですね。香山リカ来年引退。ほんまかいな。
圭骸「今後の付き合いは冠婚葬祭のみ。で、事務所も解散するからって。姉ちゃ(註:「ん」脱か)も来年で引退したいみたいなの」
吾妻「せっかくの緑の丘が、みるみるグランドキャニオンに」
圭骸「そう、なんか在宅失踪な感じ」
まだ触れていない作品も数多くありますが、一々書いているときりがありませんので(完成前に次の発売日が・・・)この辺でおしまい。今月号は、特に外れが少なくて、読んでいて大変充実した印象がありました。今後もこのクオリティを維持していって欲しいと切に願う次第。
しかし、いつも本誌を買っていた本郷三丁目の書店が、先月から『リュウ』置かなくなったんだよね・・・大丈夫かな。