『月刊COMICリュウ』の感想を書く当ブログの記事の企画も長らく中断しておりましたが、それというのも万事不調でそんな余裕がなかったからでして、というか記事を書く以前に、買った漫画や本をを読む気力すらない有様で、更にいえば本を買う以前で既に気力が尽きて買いもしていないような、そんな状況が続いていたためでした。

その状況が大して良くなったわけでもないのですが、それでも今回何とか久しぶりに『リュウ』の感想を書かねばと思い立ったのは、それは小生が同誌を読むきっかけとなった
ナヲコ先生の連載作品「なずなのねいろ」が、12月発売号で最終回を迎えることとなったためです。ちなみに如上の状況だった小生は11月発売号を積んだままにしていたので、
ナヲコ先生のブログを読んで最終回のことを知り、それ以降ますます沈滞していたのはブログ更新が途絶えていたことからもお察しいただけようかと思います(もちろんそれだけが理由じゃないんですが)。
ところで、「なずなのねいろ」連載が終わってしまったら、今後『リュウ』の購読を続けるか、正直迷っているのですが・・・最近は如上の事情で斜め読みしかしていなかったので、今月発売号を読んで考えてみます。そんなわけで久しぶりのこの企画として、
『月刊COMICリュウ』2010年2月号の感想をなるべく簡潔に(長々書く気力もまだ回復してなさそうなので)、以下述べていきたいと思います。
・ナヲコ「なずなのねいろ」
というわけで、三味線を弾く少女・なずなと、彼女の音に惹かれて三味線部を立ち上げようとする高校生・伊賀君と、彼らを取り巻く人々の物語も、連載32回目にして完結となりました。
最終回は、三味線部がいよいよ文化祭でお披露目! ちょっと最後が駆け足だったともいえなくはないですが、開かれた場で演奏することの出来なかったなずなのねいろが聞く人々を得ると同時に、なずなの周りの人々のつながりもまた回復されていくという、しみじみとした終わりでした。『voiceful』と通じるものもありますね。連載お疲れ様でした。
単行本は来年2月発売だそうで、全体をまた読み直してその時に感想が書ければ・・・と思います。「なずな」は後半、一回のページ数が少なくて、ちょっと話のつながりが分かりにくいような気がしたので、単行本で読み直すことを楽しみに、2月を待つことにします。今更ではありますが、毎月12頁よりも、隔月24頁で掲載する方が良かったのかも知れません(『リュウ』にはそういう形で載っている漫画が幾つもあります)。ナヲコ先生も
ブログやツイッターで述べられているように、原稿が「白い」のが最終回の玉に瑕・・・ですが、それだけまとめるのが大変だったのでしょうね。これも単行本に期待です(ついでに加筆があるともっと嬉しいですが・・・)。
ところで、しかしこの最終回にはちゃんとトーンの張ってある頁が1頁だけありまして、今や学園を舞台とした漫画ではお約束ではありますが、文化祭の模擬店で「メイド喫茶」やってるので
なずなが「メイド服」。
今号の『リュウ』、なずなは「メイド服」だし「木造迷宮」の
ヤイさんは巫女さんだったりで、個人的にはもうこれで今号は「元取った」気分です。
・アサミ・マート「木造迷宮」
上で書いてしまいましたが、今回は年末に出た号ということで? 本来、三文小説家のダンナさんと一つ屋根の下で暮らす健気な女中さんのヤイさんの物語・・・のはずが、今月はヤイさんが巫女さんです。人手の足りない神社のために、サエコさんがヤイさんを引っ張っていくのですが・・・あとサエコさんもですね、まあその。取り残されたダンナさんの鼻水顔が哀れにも可笑しいですね。
『木造迷宮』には1巻にヤイさん「メイド服」着用があって、4巻ではセーラー服着用のお話もありましたが、この分で行くと来年は・・・ヤイさんナース服? 流石にキャビンアテンダント(スッチー)はないとしても、時代設定的にはバス車掌なんていかがでしょうか。
・蒼崎直「官能小説家 烏賊川遙のかなしみ」
祝単行本化。この道20年以上のベテラン官能小説家・烏賊川遙先生と、「エロ」を巡って先生と出会う人々の織りなすコメディ(時にほろり)の快作です。
単行本が出てからも、先月号・今月号と順調に連載されており、2巻もやがて出ることでしょう。今号は「単行本化記念」として、普段と体裁を変えて4コマ(風)になっています。今回のでは、「その時、歴史が呻いた」が特にお気に入りですが、どれも軽妙で面白いです。「超合金の処女(おとめ)」こと御所瓦清美(37)さん(超堅物の編集者、でも編集してるのは官能小説の雑誌・・・)も再登場して喜ばしい限り。
ちなみに先月号(単行本未収録)は、デブ専に生涯を捧げてしまった作家の話でしたが、一言で要約すれば「その嗜好はわからんけど、情熱のすごさには感動した」という、大変よいお話であると同時に、ノリが良くて楽しいお話でした。両頁見開き一面の夜景を背景に、
「この世界で / 本当の自分を貫けずに / 苦しんでいるのは / お前だけじゃないんだぜ・・・!」と絶叫するという、『リュウ』買った人がたまたまこの頁を開いたら「XENON」と間違えそうな展開でした。
余談ですが、本作も単行本が出たのでネット上に感想が幾つも上がっておりますが、小生がざっと目を通した範囲では、ほとんどの方が本作について、烏賊川先生とその挿絵を担当することになった新人イラストレーターこと「萌え」エロ同人の人気作家・MOMOZIくんとの凸凹コンビの面白さを挙げておられます。もちろんこの、エロを描いていながら世代も分野も違う二人のギャップは、本作の面白さの大きなところですが、それだけじゃないんです。例えば単行本にも載っている、烏賊川先生とそのお母さんとの切ない話など、エロと人のドタバタを、上から下から斜めから、様々に描いているところが楽しいのです。その幅の広さは、声を大にして宣伝しておきたいと思います。
・速水螺旋人「靴ずれ戦記 ―魔女ワーシェンカの戦争―」
これまでのイラストコラム「螺子の囁き」(当ブログの過去記事でも蒸機ネタを中心に度々紹介してきました)の発展的解消として? 連載の始まった速水螺旋人先生の漫画。本来、この連載開始ということも小生的には大ニュースで、当ブログで記事を立てるべき話題だったのですが、ここ数ヶ月の不調で
ご覧の有様でした。
そんなうちにも連載は順調に進んで早3話。大祖国戦争中のロシアを舞台に、なぜか赤軍所属の魔女ワーシェンカ(メドヴェージェワ軍曹)と、政治委員(かな?)のめがねっこナージャ(ノルシュテイナ中尉)の冒険? を描く、舞台といい設定といい速水先生でなくては出来ない一篇です。
今回は12月発売号というわけでサンタクロース・・・ではなくて、ジェド・マロースの登場。正直なところ、神話とかに疎い小生は、ロシアにおけるサンタクロース的存在のジェド・マロースを初めて知りました。で、武装SSの捕虜になったジェド・マロースを救出すべくワーシェンカ大活躍だの雪娘スネグーラチカだのプロペラ推進そりだの対戦車銃だのてんこもりで、可愛くてかっこよくて可笑しくてスタハノフに面白いです。微妙に読者を選ぶかも知れませんが。
第1話はともかく、第2話・第3話と結局最後はウオトカ呑めて万歳、というロシア的結末を迎えているのもいい感じです。ズブロッカ呑みたい(最近の内臓の調子ではやめておいた方が良いか・・・)。
ちなみに今号、
夢乃むえ「さえもえな日常」シリーズの最新作
「チハたん走る!」(毎回タイトルが変わっている)はなぜか女子高生が97式戦車を走らせるお話で、この話の続きに「靴ずれ戦線」が続けて掲載されているため、頁の左右でチハ車とドイツ兵が並んでいるというシュールな展開になっております。狙った訳じゃないでしょうが。
どっちも女の子と兵器の出てくる漫画ですが、どちらも所謂戦闘美少女モノ的というかイロモノ架空戦記的というか『MCあくしず』的というか、そういう臭味を感じさせない作品なのは全く素晴らしいことと思います。いやほんと。
・田邊剛「ゲニウス・ロキ 異形建築家阿修羅帖控」
今年の9月号(7月発売)に掲載され、面白かったのでまた載ればいいなと思っていた一作。小生同様に感じた人も多かったのか、めでたく2回目が載りました。これは明治~昭和初期の建築家・伊東忠太を主人公とした怪奇ものです。近代史に題材を取った伝奇もの、というのは、しばらく前に一区切りついた「三つ目の夢二」など『リュウ』には結構よく載っている印象がありますね。小生は日本近代史やっているくせに、伊東忠太といえば築地本願寺や今は亡き阪急梅田駅コンコースを作った人、という位の印象しかなかったのですが、何でも実際に妖怪が好きだったのだとか。
本作はなんといっても絵が素晴らしく、作品の世界とぴったり波長が合っています。相当高密度に描き込んでいながら、全くくどくなく、読みやすい――という言い方は何だか安っぽくなってしまいますが、作品世界に入り込みやすい、こってりしていながらもたれない料理という印象です。
伊東忠太が妖術使い? として建築物にまつわる悪霊鎮圧に活躍する、荒唐無稽と言えばそれまでの話ですが、しかし素晴らしい絵の語り口に飲み込まれてそんなことは言わせない迫力があります。是非、単行本が出るまで続けてほしい作品です。
あ、悪い癖でまた文章が長くなってきましたね・・・長くなるから完成しないという悪循環でもあるので、なるべく短く。
というわけで箇条書きをやめて以下列記していけば、
神楽坂淳/伊藤伸平「大正野球娘。」は数ヶ月前からいよいよ野球娘たちと朝香中学野球部との試合が始まりました。いよいよクライマックスで、駆け引きとドタバタとが絶妙に組み合わさって面白いのですが、反面終わりが近づいてきているとも思えばちょっと寂しくもあります。前号でピッチャーのお嬢・小笠原晶子をわざと疲れさせるために出塁させた朝香中学に対し、桜花会側はピッチャー交代! というところで次回へ続く。続きが楽しみ。
安彦良和「麗島夢譚」も快調に連載中。松浦党水軍の伊織とイギリス人で隠密なミカ・アンジェロが、台湾の支配を巡るスペインとオランダの激しい角逐に巻き込まれたところで、いよいよ17世紀初頭の台湾といえば、の鄭芝龍が登場。今回は激しい戦闘シーンとその残虐さに絶望する天草四郎と、見所がたくさんありましたが、鄭芝龍の登場でこれも続きが気になります。
そして本誌最大の目玉連載?
安永航一郎「青空にとおく酒浸り」も、MM(マイクロマシン)をお香の力で退治する新キャラクター(ってもう数ヶ月前に登場してましたが)尻神楽さんの話が盛り上がって絶賛連載中。しかし単行本4巻は、というか多分6巻ぐらいまでは出せると思うのですが・・・。ちなみに小ネタも激しい安永作品ですが、今月は背景に以下のようなのが・・・

「ぐはははは 灰皿にっ テキーラ!!」「死ぬよう」
・・・市川海老蔵の事件は11月25日だったのですが、詳細が報じられたのはもうちょっと後だったと思いますし、よく12月19日発売号に間に合ったなあと。なるほどこう時事ネタを盛り込むような、そんなその時の「気分」で描いているから、安永先生は単行本化に消極的なのでしょうか。
ベテラン連載陣の話ばかりもなんですので、今回発表のあった『リュウ』の新人賞「龍神賞」入選作品の話も一つ。
「龍神賞」は金・銀・銅の三段階ありますが、今回銀龍賞に輝いたのが
村山慶「セントールの悩み」。翼人やら半獣人やらがいる世界(でも電車で通勤通学してる)で、ケンタウロスの少女が主人公。そのお悩みは「性」に関するもので・・・、と、一歩間違えばただの下ネタになってしまいそうなお話を、絵柄も相俟って可愛らしくまとめています。これはなかなか。「烏賊川遙」もそうでしたが、性についていろんなアプローチの作品があるのは『リュウ』の特徴かも知れず、さてこそ
これとか
これのような企画もあったのでしょう。絵も可愛く、しかしありがちな「萌え」絵ではない味わいがあり、選評の吾妻ひでお先生が「かわいい女の子が描ければ この世界食っていけるよ チョロイよ!」と描いておられるのもむべなるかな(『リュウ』の漫画にはそうでないのが結構ある気もしますが・笑)。
もっとも、個人的感慨を付け加えさせてもらえれば、半人半馬のケンタウロス少女を可愛く描ける人でも、電車をバランスよく描くのは難しいんだなあ・・・ということは痛感しました(今号、
星里もちる「ちゃんと描いてますからっ!」に京王線電車が登場しましたが、これは電車をおおむね「ちゃんと描いて」ました。この辺がベテランと新人の差か?)。あと、受賞者コメントがネタなのかマジなのか判断に迷います。
連載終了といえば、小生がこれも毎号読んではううん、と唸っていた
大塚英志/菅野博之「大塚教授の漫画講座」も今回で終了でした。上の「龍神賞」で編集部が、この賞の受賞者は多くが単行本出すまで漕ぎ着けています、と強調している一方、巻末で大塚教授が
「持ち込みや投稿をして新人賞をとって担当付いてアシスタントやりつつ連載、コミックス、アニメ化・・・(中略)みたいな「紙の雑誌」を想定したまんが家のサクセスストーリーがこの後は多分、成立しにくくなります」と述べている、その混沌が誌風なのでしょうか。また新たな形で、大塚氏の記事は載せていただければと思います。
さて、他にもコメントしたい作品は幾つもあるのですが、そして最近、「なずな」のみならず終了作品と新連載とが交錯していて書くべきこのと多い『リュウ』ではあるのですが、流石に現在の調子ではここまで書くのがやっとです。
というわけで今号の感想はここまでとさせていただきますが、こうして読んでみれば、やはり『リュウ』は小生と波長が合う雑誌のようです。安永先生の単行本は出るか分からないし、速水先生もページ数少なめだからこれまたいつになるか分からないし、それに一応ナヲコ先生も「次回作もお楽しみに!!」ということを信じて(
打ち合わせしてるらしいし)、当面は読み続けようかなと思います。
あ、でも、波長が合いそうといっても、流石に今号附録の「コスプレ&イラスト はやぶさカレンダー」は意味不明でした。もちろんブルートレインでも新幹線でも戦闘機でもない方の「はやぶさ」ですが、イラストはいいとして「コスプレ」って・・・?
(以下備忘の資料)