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筆不精者の雑彙

bokukoui.exblog.jp

今夜、すべてのスマホで

 新型コロナウイルス禍で世界的に騒ぎになっていますが、そのどさくさに紛れて、というと聞こえが悪いですけれど、このように人びとの心が移ろいやすい時こそ、今起こっていることをじっくり考えなおすことの意味も小さくないと私は思います。
 というわけで、先月のひところネット上で話題になったけど、すでに流されてしまいつつありそうな話題について、備忘を兼ねて。

 先月、香川県で、子どものゲームやネット依存を防ぐことを眼目とした条例が制定され、本日4月1日より施行されることになりました。肝心の条例の成文が、香川県のサイトを検索しても見つからないのですが、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)(素案)というのが見つかったのでリンクしておきます。これが県議会で議論したのちの案らしいので、成文とほぼ同一とみてよいでしょう。


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# by bokukoui | 2020-04-01 23:45 | 時事漫言 | Comments(3)

自粛はいつから要請されるようになったのか

 新型コロナウイルスで世の中騒がしく、小中高校の休校だの各種イベントの中止だの、いろいろと影響が広がっています。果たして小中高の全国的な休校までする必要があるのか、かなり疑問ではありますが、そういった「対策」の一環として、例えば大規模イベントのほか、ビュッフェ形式の食事であるとか、スポーツジムの影響であるとか、さまざまなものが「自粛要請」されています。
 これは考えてみれば不思議な言葉で、「自粛」という言葉を辞書で引いてみると、

「自分から進んで、行いや態度を慎むこと。」

 という定義が示されます。「自分から進んで」というのがポイントで、だから「自」粛なのですね。
 ところが、「要請」というのをこれまた辞書で引くと、


 となります。
 「自分でから進んでやる」ように、他者が「強く願い求める」というと、自主的なんだか命令なんだか、はなはだあいまいになってきます。別に「なるべく控えるように要請」とか、「遠慮してほしいと要請」とか、もっと論理的な筋が通って、かつ同じ意味の言葉はありそうなのに。この言葉は、「自粛」という言葉で相手を立てているようにも見えて、実際のところは相手の自主性を勝手に「当然そうするよね」と決めつけているような、危うさもはらんでいるように感じられるのです。

 というところでふと思ったのですが、この「自粛要請」という言葉、いつから使われるようになったのでしょう?
 こういう時に便利なのが、神戸大学の新聞記事文庫で、戦前の新聞記事の膨大なスクラップを全文デジタル化した上、誰でもネットで利用可能という太っ腹なものです。私も研究で常々お世話になっており、ある時親戚の神戸大学卒業生に会ったので「神戸には足を向けて寝られない」とこのことを言ったら、「え、そんなのあるんですか」といわれました(苦笑)。
 てなわけで早速、「自粛要請」で検索……あれ、一件もない! 「自粛を要請」ではどうか……やはりありません。これはどうも、戦前には使われていなかった言葉のようです。戦前は「自粛要請」などと回りくどいことをいわず、強権的に命令して済ませていた……というわけでもないでしょうが。

 そこで私は大学へ赴き、図書館の契約している新聞記事データベースを調べてみました。まず朝日新聞を見てみると、1953年10月11日付朝刊の「小麦粉価格抑制へ 農林省、業界に自粛要請」という記事の見出しが一番古いもののようです。
自粛はいつから要請されるようになったのか_f0030574_17381729.jpg
 敗戦からようやく独立を回復した頃の記事ですが、食糧難はまだ解決されたとは言えない時代を反映した記事ですね。これは業界の自主規制をうながす、という文脈で、こういった「行政指導」自体は昔からあったものですが、戦後になって「自粛要請」という四字熟語になったもののようです。
 もう一つ、読売新聞の例を見てみましょう。こちらでも、見つけられた中で最古の「自粛要請」は、やはり独立回復してそれほど経っていない、1954年4月4日付朝刊の「預金特利に自粛要請 大蔵省」という記事でした。
自粛はいつから要請されるようになったのか_f0030574_17514699.jpg
 これは、銀行が高い金利を特定の大企業などにつけていたのを自粛させるもので、護送船団方式の走りと位置付けられましょうか。
 朝日新聞のデータベースで「自粛要請」を検索した、年代順の古い結果はこんな感じです。
自粛はいつから要請されるようになったのか_f0030574_18401495.jpg
 用例を見ると、経済的な問題で業界に「自粛を要請する」とか、国際問題で間接的に要望するとか、そういった場合が主なようです。これがいつ、現在のように国民一般へも使われるようになったか、それも一つの論点になりそうです。

 ところで、朝日新聞のデータベースはきっち検索ワードだけを選りだすようですが、読売のデータベースは関連するものも含むようです(悪く言えばノイズも多い)。なので、「自粛要請」で検索しても、そのワードが入っていない記事が出てくることもあるのですが、そこで見ると要請ではなく「自粛を要望」という例が散見されます。はて、自粛要請は戦後の表現でも、「自粛要望」だったらもっと古いのがあるのか? と読売新聞のデータベースで検索したところ(朝日のデータベースはけしからんことに、私が使っている図書館では戦前分の契約をしていないのです)、いちばん古い例は1938年6月18日付朝刊であることが判明しました。
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 記事の見出しが「けふ早大新聞号外で学生の自粛要望 大隈会館開放を求む」です。これは右側の写真付き記事と一体で読まないと意味が分からないもので、日中戦争が泥沼化しつつあった1938年、当時の警視総監・安倍源基(写真の人物)が、「学生どもは『時局認識』が足らん」として、繁華街などでうろついている学生をしょっぴきまくった「不良狩り」をやっていたのが背景にあります。その標的にされた早稲田大学の学生が、警察はやりすぎだと反発して集会を開き、大学当局の対応を求めると同時に、学生自身も行動を慎むように、として「自粛を要望」したということのようです。なるほど、これならば「自粛を要望」も意味が通ります。学生たちが、自分たちの行動について慎もうと申し合わせたのですから。
 それにしても、安倍源基といえば昭和初期には「赤狩り」で名を馳せた人物です。赤を狩りつくしてしまったので、戦時下を口実に学生を取り締まってみたのでしょうか。それに対し、早稲田の学生が団結して対抗しているのは、今日の状況を思うと、その精神に頭の下がる思いです。もっともこれは、それだけ当時の大学生が少数のエリートであり、特権意識も強かったということの反面でもあります。大多数の民衆には、大学は縁遠いものでした。だからこそ安倍は、「学生狩り」をやることがむしろ多数の支持を得られる、と踏んだのかもしれません。

 とまあ、世間が騒ぎになっている時こそ、ふと当たり前のように使っている言葉を見つめなおしてみるのも、多少の意義があるのではないかと思います。焦ってトイレットペーパーを買いに走ったりしないで済む、くらいの効用はありそうです。

# by bokukoui | 2020-03-04 18:47 | 時事漫言 | Comments(2)

渋谷駅頭のデハ5001号、秋田県へ移設

 このブログで2006年の設置以来断続的に取り上げている、渋谷駅頭のデハ5001号のことですが、大きな動きが報じられました。


 なんと、はるか秋田県は大館市に移設されるというのです。

 旧デハ5000系は東急線を引退してから、長野や静岡、福島に熊本など全国各地で活躍しましたが、秋田には縁がありません(そもそも秋田県に電化私鉄は現存しません)。ハチ公の出身地という関係はありますが、ハチ公とデハ5000の関係はありません(ハチ公が死んでずっと経ってから5000系ができました)。正直、取ってつけたような話だとは思います。

 とはいえ、このところ渋谷は「百年に一度の再開発」として大々的な工事が行われており、銀座線渋谷駅も移転しましたし、東急東横店もこの3月で閉店するということです。そんな再開発を取り上げたメディアも多いのですが、それらを瞥見した印象では、その再開発後にデハ5001をどうするのかという話はまるで出てきていないようでした。なので私は、この再開発の結果として、そもそもの発端から東急車輛側の「厄介払い」的色彩があり、十年以上見てきても渋谷区がどう扱うのかまったく定見が無かったとしか言いようがない、このデハ5001は、撤去処分されてしまうのではないかと懸念していました。

 その予想からすれば、一応身の振り方が考えられたというのはホッとすべきことではありますが、渋谷区がろくに活用法を考えなかったあげく、遠陬(というといささか大館には失礼ですが)の地に追いやってしまうのは、これまた「厄介払い」の印象を免れず、日本鉄道史上画期的なこの車両の価値を、渋谷区も東急もついぞ認識せぬままであったという悲しい事実は、変わらないといわざるを得ません。

 当ブログも、諸事情でデハ5001のみならずブログの更新が滞ってばかりで、申し訳ない限りです。実は昨年にも、上京の折にデハ5001を撮影していたのですが、日々の仕事などにかまけて、ブログに掲載できないままでした。今回の報道を受け、とりいそぎ昨年の撮影結果をアップしておきます。

→今日の東急デハ5001号の状況(75)


 今後の予定は、上掲記事によると、
 「青ガエル」は今後、2020年5月下旬から6月上旬にかけて、渋谷駅ハチ公前広場から移設。7月より、大館市観光交流施設「秋田犬の里」芝生広場にて、「忠犬ハチ公」を中心にした渋谷と大館の歴史に関する展示をしながら、施設来場者の休憩場所として使用する計画だそうです。

 渋谷区では、「『忠犬ハチ公』像と共に渋谷の象徴となっている『青ガエル』移設により、大館市との繋がりを強化し、同市の『忠犬ハチ公のふる里』としての知名度を高めると共に、さらなる観光客の誘致に繋がること」を期待しているといいます。

だそうです。

 長年デハ5001を見てきた当ブログとしては、可能な限り移転についても見守り、秋田へも調査に行くつもりです。日本鉄道史における「負の歴史」を将来にとどめるために。



# by bokukoui | 2020-02-14 16:51 | [特設]東急デハ5001号問題 | Comments(1)

日赤ポスター問題をめぐる往復書簡(まとめ)

※本記事を往復書簡のトップに置くため、日時を実際の投稿時間とは異なるものにしてあります。

 さる10月、日本赤十字の献血事業の宣伝ポスターに、『宇崎ちゃんは遊びたい!』というマンガのキャラクターを使ったものが一部で張り出されましたが、公共性の高い機関が行う宣伝としてはあまりに性的な表現が強すぎないかと批判を受け、日赤が指摘を踏まえて今後のキャンペーンでは対応を検討するとした一件がありました。概要はこちらの新聞記事にまとまっています(有料記事ですが、無料登録でも読めます)。私もこの件に関しては、公共の場に公的機関が出すポスターとしては不適切だろうと考え、そういった意見をいくつかツイッターでRTし、またこんな感想を述べました。
献血ポスターの件は、すでに多くの指摘があるように、ポスターは作品の文脈から切り離されているので、余程有名な作品でない限り、その一コマで判断されざるを得ない。それでは煽りと胸しか印象に残らず、献血の宣伝にふさわしくないと思われても仕方ないだろう。内輪ネタを公共でやるなという話。
墨東公安委員会 (@bokukoui) 2019年10月22日
また以下のツイートからも、かなり長く論じています(詳細はツイートの日付をクリックしてください)。
ことのついでなので、若干日赤ポスターの件について感じたことを書いておく。何か考えをまとめる前に、問題がどんどん余計なところへ飛び火して、ますます呆れかえるしかない件だったが、私が件のポスターを見て真っ先に感じたのは「松戸臭」だった。
墨東公安委員会 (@bokukoui) 2019年11月9日

 さて、こういった私のネット上の発言について、旧知の儀狄氏よりメールが寄せられました。私もそれに返信し、往復は数次に及びました。儀狄氏のメールは長文の力のこもったものであり、私もまたそれなりの長さのものを書きましたので、せっかくならば広く一般に公開して世の参考に供したいと考えました。幸い儀狄氏の同意もいただけましたので、以下にそのメールを基本的に一通一記事として掲げたいと思います。
 なお、儀狄氏は私の大学時代のサークルの後輩を通じて知り合った方で、大学では東洋史を(中国の貨幣制度を中心に)学ばれたとのことです。その教養の一端は、私が以前まとめた以下の記事をご参照ください。

  儀狄 ‏@giteki 先生の中国貨幣史講義~『中国嫁日記』の「小銭問題」の原因は歴史にあり

 氏はまた、いわゆる「オタク」趣味やパソコン自作などを嗜まれるほか、「表現の自由」について関心が深く、以前の児童ポルノ防止法改正の際には国会議員へ陳情に行ったこともありました(その議員の選挙区に私が住んでいたので、私も同道しました)。氏が私にメールを送られたのは、諸事情により現在ツイッターがロックされているからとのことです。

 なお、本件について私が参考にした主なサイト(多くはツイッターで紹介した)は以下の通りです。程度の差はありますが、私はこれらの記事の意見にはおおむね近いところにいると思っております。なおこれらは発表日順に並べています。

・牟田和恵「「宇崎ちゃん」献血ポスターはなぜ問題か…「女性差別」から考える」

 以上を踏まえて、儀狄氏から寄せられたメールと、それへの私の返信とを、以下の記事にアップします。








 以上8通で構成されております。長いですが、ぜひ順に読んでみてください。

# by bokukoui | 2019-12-09 23:59 | 時事漫言 | Comments(6)

日赤ポスター問題をめぐる往復書簡(8:墨公委発信)

 本記事は、
への、私による返信です。この往復書簡の経緯については、まとめ記事をご参照ください。


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# by bokukoui | 2019-12-09 11:15 | 思い付き | Comments(3)